影法師
紅いお空が影をのばす
兄と二人 山奥で
寂れた社をみつけたあの日
突然 消えてしまった兄を
どうか どうか 返してください
逢魔が時に 見失い
呑まれた兄は 私を残し
一瞬にして 消え去った
なにかに招ばれた兄さんは
一体 何処にいるのでしょう
いつまで経っても帰ってこない
何処にもいない みつからない
淋しい想いが募っては
頬を濡らして夜を過ごす
私はずっと 待ちぼうけ
見上げた空は あの日の空と
とてもよく 似ているからと
背丈の伸びた 私はいつも
何度も過ぎ去る季節の中で
あなたをずっと 探しています
漂う 甘く 芳しい
あの日もかいだ 懐かしの
金木犀は 今年も咲いた
あなたを思い出す香り
兄さん あなたに逢いたいです
カタカタ揺れた 風の音
既望の月が 雲から覗く
照らしだされる 窓の向こうに
どんなに待ち焦がれていたことか
あの日のままの 姿が其処に
月夜は滲み 頬緩む
やっとあなたを みつけたよ
漂う穢れ それは妖しく
変わらぬ姿で 愛しい聲で
私を呼んでは 手招いた
濡れる瞳に 胸の想いは
あふれるばかりで 止まらない
やっとあなたに逢えたのです
虚の兄とて構わない
駆け出す私は 境を越えた
あなたの影を 追うために
───これでずっと、あなたの傍に…。