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黒い魂との戦い(2)

 ダイアン・フォーチュンが落ちた場所は、ギルド本部付近だった。


 轟音が町中に響く。

 ステルダム国騎士団が門へと行こうが町人のように付いてはいけないギルド職員は何時ものごとく、書類を整理していた。直接的な被害はないものの、近くで轟音が聞こえたので(みな)本部から出て、確認しに行く。

 爆発か何かはわからないが、かなり激しかったようで粉塵が巻き起こっており、詳細はわからない。

「なんですかね?魔道具製造所が失敗でもしたかな?」

「ここら辺に施設はなかっただろう」

 リンデとガレスも他の職員と同じく、立ちこめる粉塵に目を向けていた。

「それにしても誰かは知らんが、ハチャメチャやったな。ガハハハッ!」

「笑いごとじゃないですよ、ガレスさん。よく考えればあそこ住宅街じゃないですか」

 2人がそう話しているときガサッ、と粉塵の奥で何かをのけた音がした。

 音に続いて、しゃがれた声が聞こえてくる。

「ほっほっほっ!まさかここまで、ステータスがアップしているとは。全く、楽しませてくれるわい」

 その声にガレスは眉を少し動かして反応した。彼の顔を凝視していなければわからないほど、少し。

「…前回の失敗(・・・・・)を考慮してアップしたのか。ぬかりないのう」

 ぼわっ!と粉塵が消えた。

 露わになったのは老人と言えるような男。男が顔を上げた。

 その直後――。

 ドゴォォォン!!という音とともに男の近くに何かが落下した。もう1度粉塵が巻き起こる。

「やっぱ、そう簡単にはいかねえよな」

 今度はリンデもよく知っている、隆二の声だった。

「衝撃波!」

 隆二の攻撃により視界が開ける。リンデたちが見ると、彼の衝撃波は男の黒い塊に阻まれていた。衝撃波を拳に纏い、隆二は男に突進するように凄まじい速度で走る。対して男は黒い塊を拳に纏った。

 そして――。

 バコォォォォン!!!と爆発音のような響かせ、両者が激突した。

「キャッ!」

 衝突によって生み出された衝撃波が周囲を巻き込む。激突した彼らの足元を中心に足場が崩壊していく。建物も同様に吹き飛び、各方面に瓦礫が散る。

 当然、一般市民であるリンデ含むギルド職員がこの衝撃に耐えられるわけがない。しかしリンデたちが驚いた声を出しただけで済んだのはガレスのおかげだった。ガレスは両者が激突した瞬間に、ギルド職員たちを囲うようにバリアを張ったのだ。

「行動が速いのう。そう、せかせか生きていたら楽しめるものも楽しめんわい」

「余計なお世話だ。十分楽しめてるよっ!!」

 隆二は突き合わせている手で、男の腕を上に上げる。

 そして突進し、防御がガラガラだった男の腹を思い切り殴る。

「衝撃波!」

「ぐぅッ!!」

 男は即座に黒い塊を移動させたが、間に合わなかった。

 来た時と同じように男は凄まじい速度で、後方へ飛んでいく。それを隆二が目で追えない速度で追っていく。



 それを眺めながら、彼は小さく呟いた。

「……あんたは、変わんねえな」



***



 ――再び、両者が激突する。

 片方は『衝撃波』を、片方は『黒い魂』を自分の拳に纏う。

 ダイアン・フォーチュンが次に吹き飛んだ先は、エミリーとテミスが通う『王都学院』の食堂だった。

 その中で互いの拳をぶつけ合うと、先ほどと同じように周囲の机やいす、更には壁も衝撃波によって破壊されていく。

「くそっ!こんなとこで打ち合いたくねえ!」

 隆二は突き合わせている拳を離して、一瞬のうちにダイアンの後ろに回った。

「ちょっとこっち来い!!」

 ダイアンの服を掴み、半ば無理やり『王都学院』の中庭に連れ出した。

「ぬう。こんな時に他人の心配をしていいのかのう?」

「一般人を巻き込むのはだめだ。彼らは何も関係ないんだからな」

「優しいのう。戦闘を始めたら周囲を気遣う事なんてできのうて。その時、巻き込まれた者がいたとしても悪いのは巻き込んだ者でなく、巻き込まれた方であろう。主の居た世界では違うかもしれんが『この世界』で力がないことは罪だ」

「まあ、あながちその考えは間違ってはねえよな。けど一応俺は『四天王』なんでな。自国民の命くらい守らねえと示しが合わない」

 この時、ダイアンが隆二の元の世界について触れていたが、彼が気にすることはなかった。情報屋に狼男、この2人が触れていたため知っている者がいるのだろう、と割り切って考えたのだ。

 隆二の返答を聞いた後、ダイアンは少し考える仕草をしそして言った。

「では、空中戦を開始しようか。主が心の底から楽しめなければわしもこの戦闘が楽しめんのでな。空中ならば、周りの建造物は少々被害があるやもしれんがこのまま地上で戦うよりかはよかろう」

「俺は別にこの状況を楽しむつもりはないがな。まあ、その提案は俺にとってもメリットがあるから呑もう」

 ダイアンが魔法を使ったのかは分からなかったが、隆二は『風上(ウィンドウ)』を使って浮かんだ。この魔法は操作が難しいうえに発動中、継続的にMPを消費するため、いくら高レベルの者でも敬遠しがちなのだが、隆二はこれを惜しげもなく使用することができる。理由としては元々のMP値が多いことと、自動MP回復というのを所持しているためである。


 2人が上空に浮かんだ時、戦闘は合図なしで始まった。


 隆二はデザートイーグル(拳銃)を取り出し、ダイアンの黒い魂に当てていく。

(さっきの策はもう使えない。どうにかしてあの黒いヤツをどかさないと!)

 しかし、いくら銃弾が直撃しようが黒い魂がダメージを受けたようには見えない。隆二は拳銃をしまって近距離攻撃に移行しようとした。

 ゾワッ!!!

「!?なんだっ!」

 隆二を中心に黒い魂がドーム状に展開される。

「……戦闘の基本はどう相手の隙をつくかと、どう相手の動きを封じ込むかというとこにある。主は敵の中でもトップクラスのスピードを有しているからな。当然、こういう処置をする」

 ダイアンが話している間に、隆二は黒い魂に全方位囲まれた。視界は黒く閉ざされた。光一筋すらも通さない密閉空間で隆二は魔法を発動する。

 彼の声は、ダイアンにも聞こえた。

「『爆発(フレア)』」

 

 ボゴォォォォォン!!

 

 轟音を響かせ、黒い魂がはじけ飛ぶ。

「爆発魔法だと!?なぜ主が禁忌魔法を知っている!?」

 まだ爆発の影響が残る煙の中で、隆二が答える。

「お前は少し間が悪かったのかもしれない。数日前の俺ならお前の言う、禁忌魔法は知らなかっただろう。けど、お前と戦う少し前に『魔導書屋』に行って色々と魔法の知識を増やして来たんだよ」

「禁忌魔法の魔導書を置いてある『魔導書屋』か……。それは大変じゃのう」

 ボワッと煙の中の影が行進を開始する。

「1つ、わかったことがある。お前が『黒い魂』を数限りなく出すことができたなら、1度目の攻撃も2度目の攻撃もどこからともなく『黒い魂』を出してきて防げたはずだ。だが、お前は防げなかった(・・・・・・)!」

 彼は右手に衝撃波を纏う。

「ということは、お前の出せる『黒い魂』は上限があって、今ここにあるヤツが全てだ。そしてその全てを俺が爆発(フレア)で吹っ飛ばした今!お前を守る盾はない!」

 ダイアンの腹に拳をねじ込んだ。

「今回はわしの負けじゃな」

 ダイアンはそう呟いた。


 数秒後、ドゴォォォォォォン!!という音が響いた。

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