魂を操る男
少し心配しすぎだろうか。
隆二はそう思いながらも、スピードを落とさずに城へ向かう。隆二は現在、風上を使って上空を飛翔している。
よく考えたら魔法発動が見えなかったのは城内部からの攻撃だったのかもしれない。最悪、エミリーが魔法を誤発動した可能性も考えられる。
だが隆二にはそんなものではない、何か危険なことが起こっている気がしてならなかった。
何も起こっていないのなら、それでいい。
しかし、そんな願いも城内部が見える位置まで来ると、あっけなく砕かれた。
城内には不気味な黒い何かが蠢いていた。すぐにでも駆け付けたいところだが、城外つまりスチュアート家リビングルームを覗くように空中に浮かぶ男を見つけた。
年を取って白くなった髪を後ろに首元付近まで伸ばしている。服装は茶色で落ち着いた着物だった。この世界に着物があるのか、と少し隆二は気になったが、すぐにその思考を停止した。
着物よりも、もっと不気味な雰囲気を醸し出しているものがある。
男がかけている眼鏡が、青白く発光していた。もしかしたら眼鏡の下の眼球自体が光っているのかもしれないが、そんなことが関係なくそれが途轍もなく不気味に思った。
しかし、あれが敵であることは明らかである。
隆二は空中で空気を蹴るようにしてスピードを上げ、男との距離を一気に縮めた。
「誰だか知らねえが、そこには知り合いがいるんだ。俺が見逃すわけがないだろう」
男の返答を待たずに、隆二は拳銃を発砲した。
パン!という音とともに発射された銃弾は、途中で速さを落とすことなく男へ向かった。しかし、途中で何かに阻まれた。
城内に出現していた、黒い何かが守るように男を囲っていた。
「無に還しか。『聖女』を手に入れて、早々に逃げようと思うておったんじゃがのお、先代よりも能力が優秀なのか」
男が声を発した。
少し枯れているように聞こえているのは、やはり年のせいか。
「仕掛けられるだけの小僧だと思うておったが、自ら仕掛けてくるとはな。よいよい、面白いではないか!しかしお互い削り合うならば、互いの目的を開示せねばならんな」
「何言ってんだ、ジジィ。お前が城を破壊しているから俺が来たんだ。互いの目的なんて最初からわかっているだろう」
「そこらへんのただ城を襲う有象無象と一緒にしてもらっては困る。わしの目的は『聖女』の入手、それのみよ」
自分の目的を開示した男は、纏っていた黒い何かを隆二に向かって発射する。
それを、隆二は背に背負っていた剣で斬ろうとしたが、実体がないかのように空振りした。
「なんだ!?確かに斬ったはず!!」
「この世界には火・水・風・地の4大属性から分かれた雷・氷やらもある。まあ、ここまでは常識の範疇かね。例外としては、無属性が有名かのう」
発射した黒い何かを、男は自分の元へ引き寄せた。
「主な例外の属性は古代の文献に記述されていることが多い。まあ、だいたいは禁忌魔法であるがな。ここまで話しておいてなんだが、わしの魔法は禁忌ではない。いや、魔法でもないというとこかのう」
妙なオーラを放つ男に少し緊張している隆二とは反対に、男は穏やかに両手を広げた。
「この地で、この世で。幾人のものが魂を宿し、その魂を解き放ったのだろうかな」
「……魂?」
いきなり訳の分からない話を始められて、隆二は困惑する。
「古来より魂は、肉体が朽ちてもこの世に存在すると言われてきた。なら今この世にどれほどの魂が漂っているのであろうかな」
「要領を得てねえな。結局何が言いたい?」
「魂、という単語を聞いた時点で大方予想はついたかのう?」
男の眼鏡の発行が強くなる。
それと同時に男の周囲の黒い何かが、不気味に蠢く。
「わしのエクストラスキルは『魂操作』じゃよ」
まだピンときていない隆二に向かって男は説明を始める。
「人間に必ず存在する『悪意』を魂から吸収し、実体化したのがこの黒い塊じゃ。元々実体のないものを無理やり実体化しているのだから、主の攻撃が効くわけがない。わしの攻撃を押し返すことはできるかもしれんが、所詮そこが限界じゃよ」
「なるほど……。俺の攻撃が効かないことはよくわかった」
「今は久しぶりのガチ戦闘ができそうで気分がいい。ついでにもう1つ、主にわしの秘密を教えてやろう。『人』には寿命という限界がある。しかし、『魂』には限界がない。そこでわしは考えた。自身の魂を現在の拠り所である肉体から解き放ち、別の肉体へと宿るという方法を」
「じゃあ、お前は……」
「そう、何人目かの『わし』じゃよ。この世に生を授かってもう何年になるのかな」
そう言って男は空を見上げた。
決して今までの人生を後悔しているわけではなく、己の人生を達観しているように見えた。まだ楽しいことが起こることを望んでいるようだった。
魂に限界がないと言っても、普通の人間だったら人生に飽きるかもしくは苦しい体験をした時点で、一生を終えるだろう。男のまだ人生に楽しさを求めているその心は、果たして狂っているのか普通の人間と同じなのか。
「話はここで締めよう。名を名乗っていなかったな。わしの名はダイアン・フォーチュン」
「俺は………。神崎隆二だ」
隆二は久しぶりに、久しぶりに自分の名を全て名乗った気がした。
この異界に来て、まだ1か月以上経ったくらいの時間だったが、それでも久しく感じた。
「リュウジか、よき名じゃ。さて、では始めようか。互いの目的のために」
両者が、明確な意思を持って激突した。




