賑やかな訪問
「終わりましたね」
「そうだな、行ってみるか」
数分後にバリア内の爆発が終了したのを確認した隆二たちは、すぐにバリアへ向かった。
到着した隆二は初めにバリアを解いた。
予想通りバリアが底面にも張られていたようで、地面が削られてはいなかった。だがモンスターの姿は全くなく、ドロップ品も全くなかった。爆発の火でドロップ品もろとも焼けたのだろう。
「モンスターが全滅するほどの威力だったのにバリアは破られなかったんですね。意外にバリアも使えるということでしょうか」
「そうだな。そこらへんは全く考えていなかった。バリア破られたら大変だったな」
「今頃それに気づいたんですか……」
隆二の発言にノンが呆れていたが、それを気にする前に隆二はあることに気づいてしまった。
(あれだけのモンスターを倒したのは俺だよな。ま、まさか!!)
隆二は慌ててステータス画面を開く。
そこにはこう表示されていた。
『LEVEL3110』
(やべぇっ!前までレベル2000くらいだったのに一気に1000以上上がってる!?)
1人で驚いた顔をしている隆二に先に気づいたのはノンだった。
「ど、どうしたんですか?なんか凄い顔ですけど」
「ああ……ノンか。今俺は自分の将来について極めて真剣に考えているのだが何か用か?」
「しょ、将来?」
意味不明なことを言う隆二をノンは頭の上に?を浮かべながら見ている。
ちなみに隆二が言う自分の将来とは、この世界に来た時に何度か考えた『隆二魔王化説』である。このままレベルが上がると自分は魔王になってしまうのではないか、というレベルが高いならではの悩み(?)である。
隆二の意味不発言を綺麗に無視し、オルリナは隆二に言った。
「被害はありませんので後処理は必要ありませんね。しかし隕石が落下したことは国王様も心配されていると思われますので、先ほども言った通りその他の責任については国王様の判断に任せます。ということなので、私たち騎士団と共にこれから城に来ていただけますか?」
「了解」
レベルが上がってもすでにカンスト状態のステータスが上がることはないことを思い出した隆二は、ショックから回復し、オルリナに答えた。
その時。
隆二が目線をちょうど、『城』に向けた時だった。
ステータス補正により遠くまで鮮明に見える隆二しか、この場で確認できた者はいないだろう。
遠くにそびえ立つ城の上部が破壊された。
魔法による現象はなかった。つまり、何者かが物理攻撃であれだけの破壊をした可能性が高い。
「冗談じゃねえ!!あそこには国王がいるんだぞ!?」
「!?」
「どうしたんですか!?」
隆二がいきなり大声を出してせいでノンとオルリナが驚いた。オルリナの説明には答えず、隆二はテレポートを魔法欄から選択した。
「いいかノン、お前を連れていく約束だったけど状況が状況だ。俺が先に行って色々しとくから、お前は後から城に来い!後オルリナさんは、一応騎士団を集めておいてくれ!」
「え、何ですか!?また何か起こったんですか!?」
「城に来ればわかる!!」
そう言い残し、隆二は空間の歪みを生み、姿を消した。
***
城が破壊される数分前――
「師匠がいるから大丈夫って言ってるのに。もう、心配性すぎるのよお父様は」
城内の廊下に引かれた赤いカーペットの上を歩きながら、エミリーとテミスは話をしていた。
内容としては、ストラスフォード国で何者かの使い魔のコカトリスに襲われたことで、マクルスがエミリーとテミスに必要最低限城から出ないように言ったことを、ただただエミリーが愚痴っているだけである。
「ですが、危険なのは本当ですよ。現にコカトリスの主人は捕まっていないわけですし」
「それはわかっているわよ。だから危険なら師匠に守ってもらえばいいじゃない、ってことよ」
「リュウジさんを城に連れてくること自体が少し問題なのです。リュウジさんを信じていない貴族が多くいる現状で、城内に数日間住まわせるとなると、その貴族たちが不満を積もらせる可能性を配慮して国王様はリュウジさんを護衛に付けることを見送っているのです」
「あのデブ貴族かっ!何でいつもいちゃもんつけてくるのかな!!」
足を床に勢いよく叩きつけながらエミリーはデブ貴族と呼んでいる者の悪口を言う。
「エミリー様、その、あの方は頻繁に城にお越しになられているので聞かれてしまう可能性があります。なので少ーし声量を下げていただけると……」
注意はするものの、エミリーの悪口には何も言わないということはテミスもそう思っているからだろう。
そんなぶっちゃけどうでもいい話をしながら歩くと、目的の場所だった、スチュアート家リビングルームに着いた。
「入りますよーお父様」
「エミリーか。お前のことだろうから外に行っているかと思ったぞ」
「お父様が外に出るなと言ったのよ」
ドアを閉めてソファーに座る。この時、テミスは侍従であるためエミリーと一緒にソファーに座りはせず、横に控える。
「お前たちを呼んだのはわかっているだろう?」
マクルスはそう切り出した。
エミリーとテミスはマクルスに呼び出されたのだ。
「はい。先程の隕石ですね?複数の隕石が落下したにもかかわらず、我が国には何も影響がなかったように感じます」
「隕石落下の被害がないのはこちらとしても嬉しいことだ。まあ、そこが問題なんだがな。被害がないのはおかしいだろう?」
テミスとマクルスは落下したのを見たのか、大まかな状況は知っているようだった。
「オルリナ様でも、隕石を止めたり無効化することはできないと思いますが」
「テミスもそう思うか。だとすると、四天王が何かをしたと考えるのが妥当だろうな」
四天王、という単語を聞いたエミリーは目を輝かせてマクルスに言った。
「絶対師匠だよ!師匠ならできる!」
「かもしれんな。ノン殿の故郷に行くと言っていたが、もう帰ってきていたのか」
隕石落下をしたのにも関わらず、3人とも緊張の色をまったく見せないのは、無効化されたことを確認し今現場に部下を向かわせているからだろう。
そう安心している時のことだった。
『ほっほ!今の王は誰かと思うておったが、あの時の小僧か』
「!?」
聞こえて来た何者かの声に、マクルスは冷や汗を流す。
「貴様はっ!まさか、お前は死んだはず!!」
マクルスは辺りを見渡しながら声を上げた。その顔は、恐怖か焦りかはたまた他の感情も含んで、青白くなっていた。
『わしがあの程度で死ぬと思うたか。はて、お主は知らなんだか、わしのエクストラスキルを』
「おい!どこから声を発している!!何が目的だ!!」
どんどんマクルスから余裕が消えていく。いや、最初から余裕はなかったかもしれない。
『お主の娘かのう。わしの目的は「聖女」のみ。まあ、主に言っても意味はなかろうて』
「エミリーか!!父上の次は私の娘というわけか、ダイアン・フォーチュン!!」
声の正体、マクルスから名を呼ばれたダイアン・フォーチュンは不気味に笑う。
『主の父上には随分楽しませてもろうた。おっと、このような話をしている時間は我にはない』
「どういうことだ」
『無に還しが来てしまう。あやつとかち合ったらわしでも時間を取られてしまうのでな』
ダイアン・フォーチュンがそう言った後のことだった。
マクルスたちがいるリビングルームの床から這いあがるように、見た目ではぬるっとした感じで黒い『何か』が出現した。
ぞわぞわとマクルスたちに迫る。
マクルスたちが後もう少しで黒い『何か』に飲み込まれそうになったその時。
パン!という音が聞こえた。
これが元の世界の軍の人間だったらわかったかもしれない。
銃を発砲する音。
何者かの声がマクルスに届いた。
『誰だか知らねえが、そこには知り合いがいるんだ。俺が見逃すわけがないだろう』
城の外でダイアン・フォーチュンと何者かが激突した。




