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黒い笑み

(何を消すかもわからない不安要素たっぷりの無に還し(ノンイレーズ)を使うのはだめだ。本当はモンスターだけをバリア内に閉じ込めればよかったが、何体いるかわからないままモンスター全てを囲むのは難しい)

 隆二は隕石が地面と衝突するその瞬間まで、思考を凝らしていた。

(俺だけを爆発から守る方法は1つしかない。バリア内に隕石が入った瞬間にバリアを完全に閉じたあと、俺はテレポートで町中に転移する)

 こうしている間にも隕石は地面に向かって距離を縮めている。

 隕石の生み出す衝撃波で並みの人間が立っていられるわけがないのだが、隆二はしっかりと地に足をつけていた。案外彼は隕石を真正面から受けても生存できるかもしれない。


 そして、立て続けに状況が進んだ。


 バリア範囲に入った隕石を確認した隆二は、即座にバリアの上部を張る。

 これで正真正銘このバリア空間内には、隆二とモンスターの大群と隕石しか存在していないことになる。

 だが、バリアを張るのに成功したことを喜んでいる暇はない。隕石はマッハの速度で迫ってくるのだ。

 素早く隆二は魔法一覧からテレポートを選択する。

 空間の歪みを残して、隆二は転移した。



 気づいたら、というか転移位置は自分で決めたので驚いたわけではないが、先ほどとは打って変わって物静かな町中に隆二は立っていた。テレポートのいいところはゲームのようにコマンドを打つことなく、1度行った場所を思い出すだけで転移できることだろう。この機能がなかったら、今頃隆二は隕石の落下に巻き込まれていただろう。

「大丈夫かな……」

 いくらバリアを張ったとしても、やはり隕石を防ぎきれたか不安でならない。

 隆二は風上(ウィンドウ)を使って急いで東門に向かった。

 上から見渡すと、ほとんどの町人が東門に向かっていることがわかった。通りでいつもは賑やかな町中が、静かだったわけだ。しかし、隕石が落下するのを見て、落ちる前に落下地点に向かうアホは少ないだろう。今東門に向かっている人たちは、例えば近所で火事が起こり消防が駆け付けた後に現場に向かう野次馬の人たちだろう。怖いもの見たさに行く人は、どの世界でもいるのかと隆二は思った。

 ほんの少し時間が経った時、東門が見えてきた。

 その奥では半円状の空間だけが赤々と燃えている。

「うへえ……。まだ爆発してんのか。あんなとこいたら、俺でも死にそうだわ」

 地面に亀裂が入っていないところを見ると、もしかしたらバリアが底面にも張られていたのかもしれない。そこらへんの操作を彼はしていないのでわからない。


 策が成功したことを確認した隆二は、東門前に集まっている騎士団のところへ向かった。

 隆二が地面に降り立つ前に気づいた騎士団から、驚きの声が上がった。

「あ!あの人だ!」

「まじかよ……!本当に生きてやがった」

「さすが新四天王だな……」

 どうやら彼ら騎士団は、隆二が四天王だということを知っているらしい。

 地上に足を付け、とりあえずオルリナのいる場所へ行こうと歩き出す隆二に、周囲は好機の視線を向ける。隆二の耳に入ってくる会話は、死なない体を持っているとか、複数の個体を所持しているやらと、だいぶ化け物じみた評価になっていることがわかる。まあ、死なない体を持っていることについてはあながち間違っていないかもしれない。世界樹(レイン)や狼男と戦った時に、何度か壁に叩き付けられたり、攻撃を真正面から受けたりしたが、痛みというのをほとんど感じなかった。なんというか、少しウッ!みたいな感じになったくらいである。

 オルリナを探そうと周囲を見渡していると、案外あっさりと見つかった。

「おーい。オルリ……っ!………うわー」

 オルリナに話しかけようとして、その隣にいる人物に隆二は気づいた。

「なにが、うわーですか、リュウジさん?」

 黒い笑みを浮かべているノンがいた。

(これはヤバイやつや……。何でヤンデレキャラみたいになってんだ!お前そんなキャラじゃねえだろ!!魔導書屋に置いて行ったのは謝るけど……、そこまで怒らなくてよくね?)

「ところでリュウジさん、東門に行くとか言って私を置いて行ったあげく、何やらかしちゃってるんですか?」

(うおおお!!怖ええええ!!)

 隆二の額に大粒の汗が浮かぶ。

「お、俺はな?モンスターの大群を殲滅しようとして、隕石を落としただけで、バリアも張ったんで被害はでてないからやらかしてはないと思うんですけど……」

 隆二はノンの笑顔が怖くて敬語になっていく。何が1番怖いかというと、怒っている顔で怒られたらそこまで怖くないが、笑顔でしかも怒っている感じを出さないのが怖い。

「いやいやいや」

 そのままの黒い笑みでノンは続けた。

「わざわざ隕石を落とすような超危険で超大規模魔法を発動しなくとも、リュウジさんなら同じくらいの威力で、でも危険ではない魔法くらいあるでしょう?それを使えばよかったのに」

「ごもっともで……」

 そう言われると、もっと安全な魔法もなかったことはない。ただ単に、隕石ってなんかかっこいいな見てみたいな、という好奇心で発動した部分もあることは否定できない。

 そこで、ノンがため息をついた。

「もういいですよ。リュウジさんがハチャメチャなのは知っていますから」

 もっと怒られると思っていた隆二は面食らう。

「え?あれ、そんな怒ってなかったのか?」

「いいえー、すごーく怒ってます。大体ですね、隕石を落としたのは大目に見てあげますが、何で私を連れて行ってくれなかったんですか!」

 周辺にいる騎士団はほぼ全員が、隕石を落としたことを怒れよ!と思っていることだろう。

「え?そこなの?」

「そこです!私は故郷でリュウジさんに付いて行くと言ったはずなんですが!?まさか、もう忘れたとか言っちゃわないですよね?」

「覚えてます!覚えてますとも!でもちょっと東門に行くだけなのにお前は付いてくんのか?」

「ちょっと東門に行くだけで隕石を落とすから、私は心配なんですよ!ぶっちゃけ言うと、付いて行きたい理由にこれも結構含まれてるんですからね!四天王じゃなかったらほぼ確実に国家反逆罪で捕まりますよ!」

 前の世界でも聞き覚えがある罪名を聞いた隆二は、改めて自分がしでかした間違いに気づく。

「やっぱりメテオはだめなのか……!」

「はい、だめです。後、もう1つ」

「何だ?」

 ノンはそっぽを向いて言った。

「その、無茶をするのはやめてください。リュウジさんのいるバリア内に隕石が落ちたってオルリナさんに聞いて、心配したんですから。すぐにテレポートがあることに気づいて安心しましたが、心臓に悪いので本当にやめてください」

 恥ずかしいのか、ノンの顔が赤くなっている。

 隆二は笑って、

「悪い。次はノンに言ってから色々行動するよ」

 そう言ってノンの頭を撫でた。

 前にも彼はノンの頭を撫でたことがある。その時にも思ったが、ノンの髪はなんかすごくサラサラなのだ。少し癖になりそうなほど。しかし、彼がロリコンであるわけでは決してない。

「本当にわかってるんですかね……。まあ、今回はこれで許してあげます。でも次はないですからね!」

「了解。肝に銘じておくよ」

 隆二はノンを宥めることに成功した。

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