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メテオ

 『メテオ』というのはゲーム等でよく使われる単語だが、これは隕石が落下してきたときの衝撃を攻撃として転換する魔法のことである。


 ここで少し、隕石について深めよう。

 隕石は地球側から見れば落下してくるものだが、正確に言えば小惑星や彗星が地球に衝突するものだ。これを隕石衝突という。

 隕石の元となる小惑星や彗星と呼ばれる天体は宇宙に無数に存在している。そのほとんどが火星と木星の間を公転しているが、なかには地球の軌道の内側まで入ってくる小惑星があり、これらの小惑星のかけらが地球と衝突する。

 有名な隕石落下と言えば、2013年ロシア連邦ウラル連邦管区のチェリャビンスク州付近で起こったものだろう。衝撃波による被害が多く、死傷者は出なかったものの1500人近くの負傷者を出している。これは原因が隕石と確定している中では、初の大規模な人的被害をもたらした。もっとわかりやすい隕石落下を挙げると、恐竜全滅だろう。恐竜全滅の根本的な原因が隕石落下である、というのは有名な話だ。


 なら今回隆二が発動した『メテオ』、いや、隕石はどうなのだろう。

 衝撃波だけでも甚大な被害をもたらす隕石。

 それを発動した隆二だが、果たして彼はともかくとして周囲の人達が生きていられる可能性があるかどうか。

 1部の魔法には『攻撃力を弱める』などの調整ができるものがあるかもしれないが、隕石に強弱などないと考えた方がいい。

 落下して来ただけでも甚大な被害を起こすのならば、今この場では隕石の大小も関係ない。なぜなら隆二と騎士団からモンスターの大群の距離はおよそ1キロメートル。もし隆二がモンスターの大群目掛けて隕石を落としたのなら、この1キロメートルでは逃げようがない。

 そして、根本的な部分を指摘すると、『メテオ』は果たして宇宙に存在する無数の小惑星や彗星を使っているのか。

 事実、『メテオ』というのは隕石を生み出し落下させるものである。

 ということは、地球の空気との摩擦で生じる熱によって小さくなる隕石が、『メテオ』の場合はほとんどダイレクトに地上に落下してくる、ということになるかもしれない。しかし、上空に出現していないところを見ると一応は少し策を考える時間的猶予はあるようだ。

 だとしても、元から『メテオ』の隕石の大小など関係なかったのかもしれない。地球を滅ぼす隕石の大きさは1キロメートルほどで充分という説もあるほどだ。


 これでは少し絶望的すぎる。

 威力は絶大。逃げることもできない。


 だが、隕石に対しての対抗策を考えていないほど、隆二は愚か者ではなかった。




***




 隕石落下。

 スピードは、マッハ50からマッハ100くらいか。

 オルリナは隆二に鬼気迫る表情で訴えた。

「なんっ!何しているんですか!?それが何の魔法かは察しかねますが、あれは隕石ではないですか!?」

「おう、そうだぞ。まあ予想よりはなんか数が多くなったけど」

「そんな大規模魔法は使用しないでください!いくら敵が多いからって自分達が死んだら終わりですよ!!」

 隆二は呆れたように肩をすくめながら言った。

「お前には俺が何も考えていないようなアホに見えるのか?国を助けるためにやってんのに、その国を自分で滅ぼしてどうする。そんくらい対抗策は考えてあるさ」

「何ですか?」

「バリアだ」

 例えば、バリアで国を覆って守れたとして、その後はどうなるのだろうか。

 国全体を覆ったとしても守れるのは石壁の内側、つまり城下町だけである。

 ぶっちゃけて言うと城下町意外にいる者は守れない、というころだ。

 バリアを解いた後、石壁の外側には何も残っていない、ということは十二分にあるだろう。

「バリアではいけません!隕石の破壊力は古代の文献で知っています。バリアで城下町を覆って我が国を守れたとしても最悪、他の国が滅亡しかねません!!」

「そんぐらいわかっている。というかお前、勘違いしてないか?俺は1度も城下町にバリアを張るなんて言ってないぞ」

「は?では、どうするのですか?」

 隆二は上空を指して言った。

「時間がないから簡潔に言うぞ」

 オルリナには見えないほどの高い位置にある隕石が、隆二のステータスでは認識できたようだ。マッハという速度を考えられないため、この距離を何秒で縮められるかはわからない。

「隕石落下地点に俺が今から向かう。そこで隕石がバリア発動範囲に入ると同時にバリアを張る。これによってメテオのダメージを受けるのは俺とモンスターの大群だけになる」

「ちょっと……ちょっと待って下さい!!それではリュウジさんが死んでしまいます!いくらレベルが高くても隕石のダメージをまともに受けて、生存はできません!!」

「まあ、普通に考えればそうだろうな。でも俺は別に死にたがりじゃない。それについても策はある」

「何ですか?」

「時間ないから言わない」

 またもや上空を指す隆二。

 今度こそオルリナにも捉えることができた。

 というか隆二と話すのに集中していたために気付かなかったが、轟音を響かせて落下してきている。

 オルリナが呼び止める前に、隆二が動いた。

「俺はもう行く。じゃあ、また後で会おう!」

「ちょっと待ってください!!」

 オルリナの静止も聞かずに、隆二はオルリナが目で追えない速さでモンスターの大群へと走った。

 その間に思考を凝らす。

(あんな偉そうに策があるなんて言ったけど、本当は一か八かだ。俺の力が通用する裏付けなんてない。どうにかして成功率が上がらないだろうか)

 凍っているモンスターの大群の中心に踊り出る隆二。

 すかさずバリアを張る。しかし、上部は張らずに側面だけを張るように、隕石を誘い込むような形の大きいバリアを張った。

 肉眼でわかる隕石の数は、8個。

 並みの大きさのバリアでは何も意味がなかったが、隆二の張ったバリアは8個全てが入るほどの大きさがあった。




 そして、隕石が地面と激突した。




 ***




 あの人はどこまで規格外なんだろう、と。オルリナはそんなことを考えていた。

 隕石を受けて生存できるなんて、もう人間業じゃない。


 彼女の視線の先には、隕石を無事に閉じ込めたバリアが。

 爆発をしていることは明らかだった。しかしバリアで遮られているために、爆音は響かず無音だった。

 いやに静かだった。


 その静寂を破る者が意外な人物だった。

「あれ?なんか騒ぎが起こっているから、絶対あの人は中心にいると思って踏んで来たんですけど……」

「ノンさん……?」

「ん?オルリナさんじゃないですか。突然ですがリュウジさんを知りませんか?なんか突然東門に行くとか言って、飛び出しちゃったんですよ」

 プンプン!という表現が合うほど、傍から見ればかわいい怒り方をしたノンがいた。

 ノンの質問にオルリナはおよそ1キロメートル先を指した。

「あれです。隕石が落下したバリア内にいます」

「隕石が落下した?……へ?バリア内?む~……」

 ノンは目を凝らした。

 今も赤々と爆発が起こっている。

 やがて、呟くようにノンが言った。

「無茶苦茶な人だとは思っていましたが……」

 握る拳がプルプルと震えている。



「今回はぶっ飛びすぎでしょーーーーーー!!!!」

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