ハチャメチャ
騎士団がモンスターの大群と対峙する数分前。
せっかく使える魔法が増えたのに、使わないのはもったいないだろう。
そう思い、隆二は東門へ向かう途中に『風上』を使用した。
この魔法は風の力を利用して対象者を浮かばすことを目的としているものである。大規模魔法というわけでもなく攻撃力があるわけでもないのに『LEVEL400』以上が使用できる魔導書に記載されているのは疑問かもしれないが、この魔法の難所はコントロールが難しいところにある。
通常の魔法、『小炎弾』を例に挙げると、この魔法は狙いたい場所・対象を見るだけでほとんど百発百中である。しかし、『風上』の場合は支援魔法であるがゆえに、攻撃という概念がなく、発動よりもむしろ発動後のコントロールが難しい。
だいだい支援魔法というのは、指定範囲内の味方のステータスをアップさせたりなどの比較的簡単でコントロールを必要にしないものなのだが、『風上』の場合発動後に足元に発生した『風』を上手くコントロールしないと転落したり、歩いた方が速いということになる。
この魔法が『LEVEL400』以上推奨である理由は、このくらいになったら魔法のコントロールも上手くなっているだろう、と魔導書の著者が判断した可能性が高い。
ちなみに、魔法をまともに使ったことが隆二がこの魔法をコントロールできるわけでもなく四苦八苦していた、と言いたいところだが、何故か彼は1発で『風』を乗りこなした。運動神経がいいからなのか、それとも何か『他の力』が働いたのか。
『風』を乗りこなした隆二はそのまま上空へ飛翔し、東門を目指した。
こうやって上から眺めてみると、本当にこの国は賑やかで発展していることを感じる。前の世界の発展とは違う意味で、発展している。こんなにも人々の笑顔で溢れている国は、そうそうないだろう。
東門が見えてきた。
付近に大勢の武装した人がいるのを見ると騎士団はもう集まっているようだ。
その先にいるのがマップに表示されていたモンスターの大群だろう。上空から見ても最後尾が見えないほどいるのがわかる。
そして、モンスターの大群が動いた。
先ほどよりも圧倒的にスピードを上げて騎士団に向かっていく。
わかりやすく、騎士団に動揺が走る。
「仕方ねえな。激突する前にこっちが先制するか」
現在の隆二の位置は地上から見ても小さな点にしか見えないほどの上空にいる。
そんな高さから地上に落下しただけでも、結構地上のモンスターにはダメージを与えられるだろう。というか、それほどの高さから落下して隆二が死なない方がおかしい。
隆二と言えども、HPは全損しないだろうが骨折はしそうだ。ということで彼は己の足にバリアを張っておいた。これで骨折は防げるだろう。
しかし、隆二はあろうことかもっと上空へ飛翔した。
そして。
一気に、文字通り空気を蹴るように、地上へ落下を始めた。
「がぅば!?風がやべえ!!」
こんなことなら、体全体にバリアを張った方がよかったかもしれない。
時間に換算すれば、助走のようなものをしていたために、およそ数十秒だろう。
そして。
ドゴォォォォォォン!!!!という派手な音を立てて隆二は着地した。
花火が耳の近くで咲く音を何倍かにしたくらいの轟音だった。
そんな盛大な登場をしたにもかかわらず、隆二はその後誰も見たことのない大規模な魔法を使用するなど、ハチャメチャしていた。
***
そして、現在に戻る。
「リュウジさん!何やっているんですか!?」
超大規模魔法『氷河』を使用してすぐの隆二に話しかけてきた者がいた。
振り返って見てみれば、エミリーのパーティーの時に隆二とノンが大変お世話になったオルリナだった。
数時間ぶりの再会である。
「やっぱ騎士団の先頭はオルリナさんだったか」
「そうじゃなくてですね!!ここにいることは別に疑問に思わないですが、何しているんですか!?あんな上空から落ちたら死にますよ!?」
「大丈夫。バリアもしたし。今、こうして生きている」
「そうじゃないっ!」
バリアとはかなり優秀らしい。
しかし、そんな事実はオルリナには不必要であり、彼女はもしものことを心配しているのである。
もしかしたら落下の衝撃にバリアが耐えられないかもしれない、などを少しは考えろと言いたいのである。
しかし、そんな説教をする時間はないのが事実。
隆二が『氷河』を使い、全モンスターを無力化しているが、そもそも隆二の使用した魔法もわからないオルリナ達がそれだけで安心できるわけもない。
「この魔法はいつ解けるんですか?」
「初めて使ったからわかんねえな。まあ、結構な時間氷漬けにできるんじゃねえかな」
隆二のその言葉を信用したとして、果たしてオルリナ達騎士団は何をすればいい?
自分達より遥かに多いモンスターを、1匹ずつ倒していくのか?
相手のHPもわからないのに?
もしかしたらオルリナでも手も足も出なかったコカトリス並みの化け物が何匹もいたとして、1匹倒すのに何分かかるのかもわからないのに?
「この量を全てここで討伐するのは、無理かもしれないです。相手のHPも未知数。もし、途中でモンスター達が暴れだしたら私達は対処できません」
それを聞いた隆二は、さも当たり前のように言った。
「誰も別にアンタらに討伐を依頼してない。ここは俺に任せろ。俺の予想通りなら、コイツら全てを一瞬で殺せる」
「それは無理ですよ。いくらあなたのレベルが高いと言っても、これではさすがに多勢に無勢です」
「まあまあ、見てろって。下がっててくれ。まあ、俺も下がるから一緒に付いて来い。」
オルリナが隆二に付いて行くと、隆二は東門の前、つまり騎士団のいる場所で止まった。
「大規模すぎて、俺もよくわかんないけど。一々あいつらを斬るのは面倒くさいから、これが最適かな」
何を言っているのか、いや言葉はわかるのだが何を呑気に言っているのだ、とオルリナは思った。
その時。
隆二がある言葉を発した。
「『メテオ』」
単語からして魔法名か、というくらいは認識できた。
隆二によって生み出された『それら』は地上を目指す。




