ベルファント
カタコト…という表現が似合う音を出しながら、馬車はノンの故郷へ向かう。
本来ならば御者も人間なので、自分の住まう土地から離れた土地まではあまり行きたくなく、そういう仕事は敬遠しがちなのだが、ストラスフォード国国王直々の頼みだったので隆二とノンを遠くの土地へ送り届けてくれている。
彼らが向かうノンの故郷とは『ベルファント』という村を指す。
ストラスフォード国領土であり、面積はさほど大きいわけでもないが人口はそれなりにあり、商店や食堂もあるので賑やかな村である。
住宅街と言われる場所も存在するが、なにしろ、『この世界』は隆二の『前の世界』のように技術が進歩しているわけでもないので、森などの自然が手付かずのまま残されている。
『この世界』はそういう技術よりも魔法やスキル、魔術、古代文明などの方の解説に力を入れているために、技術が進歩しない。それが良い事なのか悪い事なのかは一概には言えないが、豊かな自然によりベルファントが潤っているのは事実である。
隆二のマップでベルファントが確認できるほどの距離になったとき。
昼寝にしては随分と長く眠っていた隆二はようやく目を覚ました。
「ふあぁ……。結構寝たなあ」
目を擦りながら隆二は窓の外の景色を眺め始める。
草原と表されるそこは、都会では見られないものだ。
確かステルダム国に初めて行ったときにも見たような気がするが、こうも凄いと2度目でも集中して眺められる。
それから数分した頃だった。
「ふあぁーーー!。んあ?あれ?どのくらい寝ていたんだろう」
盛大な声と共に、ノンが目を覚ました。
キョロキョロと数回周囲を見回した後、ノンは隆二を見つけた。まあ、景色を見ていた隆二はノンから1メートルほどしか離れていなかったので、見つけれなかったら相当ヤバイのだが。というか見つけるのが遅すぎる。
「よう。起きたか。多分もうそろそろ着くと思うぞ」
隆二は視界に表示されているマップを見ながら言った。
「そうですかあー!いい時間潰しができましたね!」
「お前の提案も案外よかったな。まあ、取りあえずその毛布しまえ。荷物をまとめるぞ」
隆二の予想通り、馬車は数分でベルファントに着いた。
御者に礼を言って、馬車を降りた2人はそのまま村に入る。
ステルダム国城下やストラスフォード国城下のような巨大な門があるわけでもなく、ただ単に何もせずとも村には入れた。
「はーん。特にこれといったモンはねえな。取りあえずお前の家に行くか」
「そうですね。道すがら友達に会うと思うので、その時はリュウジさんも挨拶してくださいね」
「何で俺が?」
「だって見知らぬ人が村に入ってくるんですから。私の連れ添いということを知らせないと怪しまれますよ」
2人で並んで歩いていると、第一村人を発見した。
「あーれ?そこにいるのはノンちゃんかい?」
そう話しかけてきた少女を見たノンは顔を輝かせる。
「久しぶり!お姉ちゃんの状態異常を治せる可能性ができたから帰ってきたのです!」
「いやー久しぶりだ。あんま背も顔も変わってないからすぐ気づいたよ。ところで―」
少女は隆二を指差して言った。
「このイケメンはどこの誰?まさかノンちゃんの彼氏?」
答えも聞かずにキャーと言い出した少女の口を手で塞ぎつつ、ノンは顔を赤くした。
「違う!この人はお姉ちゃんの状態異常を治すのに必要なんです!ほら!自己紹介してください!」
「えっと…。リュウジだ。今はノンに協力している関係で一緒に行動してる」
ノンに促された隆二は取りあえず、簡易的な自己紹介を済ます。
「どうもー。それにしても、姉ちゃんの状態異常を治せる糸口が見つかったのか。そんりゃあたまげたたまげた。回復ポーションも回復魔法も効かなかったのにねえ」
「そ、そうなんですよ。この人結構、いい物を持っているらしくって」
最上級ポーションの希少性を理解しているノンは安易にその名を口に出したりはしなかった。
それを持っている当の本人は、少女の言葉のセレクトセンス(主にたまげた)に興味を持っていた。喋り方も独特なものを時折醸し出していた少女。こういう、他の人とは少し違った喋り方をする人を観察するのは意外に楽しいものである。
「ま、そのいい物については治す時に聞くかね。ほんじゃまあ、家に帰りなさいや。ノンちゃんが家を出てった後、結構ご両親が悲しんでたから」
「ありがとうございます。行ってきます」
ノンはトテトテと小走りに家に向かう。隆二もその後を追いかけた。




