故郷へ
コカトリス襲撃によってパーティーが中断された隆二たち。
果たしてこの結果はエミリーにとって喜ばしいものなのだが、彼女の親であるステルダム国国王マクルス・スチュアートにとってはどうなのだろうか。
16歳のエミリーは今まで好きになった人などいない。
彼女は世間一般から見ると絶世の美女と評されるので、モテるのだが、想いを伝える者はいない。当然のことながら王の娘に求婚するのならばそれ相応の地位というものが必要なわけで、それは必然的に他の国の王子になるのである。
しかし、その王子たちからの求婚・告白をも片っ端から断ってきたエミリーという娘を持つと、両親はそろそろ深刻に彼女の将来について考えるわけである。
それが今回のパーティーという名義の、隆二の前の世界で言うところの、合コンである。
まあ、それも中断されたのだが。
しかし、マクルスは重要なことを見た。
前から、隆二が城に来た時から、怪しいとは思っていたのだ。
命の危険がある戦闘を終えて帰ってきた隆二をエミリーが抱きしめたときから。
そのときには、マクルスは心底驚いたものだ。
いくら危ない戦闘でも、男に興味すら抱かなかったエミリーが……という感じだった。
そのときに、もう答えは出ていたのだ。
別にマクルスは地位などというものに固執しない。
性格が良くて、普通の生活ができるほどの経済力を持っていて、家庭を守れるくらいには強い男なら、エミリーが選んだ男なら。
マクルスはそれでいいのだ。
「リュウジ殿か……。いい男を見つけたではないか」
たとえ、得体の知れない少年だとしても。あの少年は無性に信用できた。だから隆二の身辺調査をしろだとかいう命令を出さなかった。
向こうでユリアと何やら騒いでいる我が娘をマクルスは微笑みながら見ていた。
***
「そんじゃ。俺たちはここで」
「はい。ステルダム国でまた会いましょう」
当初の目的、ノンの故郷へ行くというものを遂行するために隆二とノンは馬車に乗り込んだ。
あの後何故かマクルスから、『娘を末永くよろしく頼む』というお言葉を頂戴した隆二は、わけのわからないまま取りあえず返事をした。
隆二がマクルスの言いたいことを理解しているかどうかは、見た通りである。
エミリーの見送りを受けた隆二とノンは、目的地を目指す。
「また、このケツ痛地獄かよ」
「我慢してください。寝ればいつの間にか着きますよ」
2人が座る座席は木材で出来ているため、長時間座るとかなり腰や尻が痛くなる。
実を言うと、隆二が剣闘士大会の優勝賞品で欲しい物というのは、こういう些細な時にあったら便利な物なのである。自分で作ればいいのだが、色々と巻き込まれたというか自分から問題に飛び込んでいたりしていたために、作る時間がなかったのだ。
「さーて。寝ましょう!毛布は持っています!」
「何故毛布を常時持ち歩いているんだ…」
ノンが背負っていた袋から、2人が丁度包み込めるほどの毛布が出てきた。
それを、自分たちの膝に広げながらノンは言った。
「いつでも寝れるようにです。寝ている時以外眠い、が私の気持ちなのでどこでもいつでも寝れますよ」
「その気持ちはわかるけどさ。人生そう上手くいかねえもんだよ。俺なんか仕事で夜遅くまで働いた次の日に、学校があって、その日は先生に怒られまくったな」
「え、リュウジさんって学校行っていたんですか?」
気が緩みすぎてうっかりしていた隆二はしまったと思いながらも、まあ大丈夫かと考える。
「少しの期間に行っていただけだよ」
「そうなんですねー。私は故郷の学校に行ってました。そう言えば、その時の友達に久しぶりに会うので楽しみです」
足をパタパタ動かし、喜びを体で表すノン。
それを聞いている隆二にはもう故郷に戻れる可能性は極めて低い。
というかそれ以前に、隆二の住んでいた東京は故郷という感じが全くしない。
そんな故郷を少し思い出した隆二はノンに話しかける。
「俺も寝ようかな。景色を見れないのは残念だけど、なんか地味に疲れているから」
「そう来なくっちゃ!一緒に寝ましょ!」
2人は同時に目を閉じる。
オスカ戦から始まり、今日のコカトリス戦。オスカ戦が終わった後休憩はできたもの、『無に還し』は体力を多く消費するのか、隆二の体調はよくなかったのかもしれない。
ノンも2日連続の戦闘に疲れたのか。
2人は寄り添って寝ていた。




