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コカトリス

 隆二とノン専用になっている机に、料理が並んでいた。

「いいですか?こういうパーティーを開くと、大体いつも召喚獣やらなんやらで襲撃してくる輩がいるので、そういうのがあったらすぐ駆けつけてくださいね」

「分かってるよ。いつでも駆けつけるから」

 オルリナから本来の警護任務を知らされるが、隆二とノンはまだ食べ続けていた。

 別に襲撃してくる輩が、王を倒して俺らがこの国を治めよう!とか思っているわけでもなく、ただ単に王族が気に入らないというだけである。まあ前の世界、つまり日本やアメリカのある世界で言うところの、テロなどを起こす過激派である。

 この世界ではそういう輩に限って自分が傷つくことを嫌うので、召喚獣などを用いていることが多い。

 召喚獣というのは召喚術によって他の世界から呼び出された者であり、召喚術によって呼び出された者は、ほとんどが高位の力を有している者である。

 召喚獣が獣である必要はどこにもなく、最近の異世界系ライトノベルで人が召喚されることがあるように、召喚される者に一定の決まりはない。

 

 隆二達に警護任務を知らせたオルリナは、元の自分の警備場所へと戻っていった。

「そんなに襲撃が多いんですね。王族とか貴族とかってゴールドがいっぱいあっていいなとか思ってましたけど、精神的にかなりきつそうですね」

「そうだな。まあ、王族になることはまずないけど、なりたいとは思わないよな」

 この部屋に来てまだ雑談しかしていないこの2人は、果たしてこの場に必要な人材なのか。

 それから数分経ったとき。

 丁度、隆二達が最後の料理に手を伸ばそうとしたとき。

 ドゴォォォン!!という音を立て、部屋のドアが吹き飛ばされた。

「何だ!?」

 席から立ちあがり、煙の奥を見る。

 煙越しから見てもわかる巨体。部屋や廊下の天井が高いことが幸いし、破壊されている箇所は少ない。

 やがて、煙は消えた。

 現れた怪物は、首から上と下肢は雄鶏、胴と翼はドラゴン、尾は蛇という異物なものだった。

 

 隆二の視界に表示された怪物の名は、『コカトリス』。


 『コカトリス』とは中世ヨーロッパ伝承に登場する怪物のこと。

 視線と吐息に猛毒を持ち、近寄った者を全て殺すとまで言われた怪物。

 隆二やノンがこのことを知っているわけではない。

 だが。

 彼らは瞬時に敵の異常なオーラを感じ、今まさに攻撃しようとしているオルリナとキエルを止めるために走り出す。

 しかし、すでに遅かった。 

 オルリナとキエルはコカトリスが襲撃してきた瞬間に攻撃準備を整えていたため、隆二とノンは追いつけなかった。

 結果的には、キエルは攻撃を食らわせることもできず、猛毒を食らった。

 コカトリスが吐く猛毒を真正面から受けてしまう。

「ぐあああああああ!!」

 体中を蝕む痛さに、のたうち回る。

「『超回復魔法』!!」

 隆二は前に魔導書を読んだ時に覚えた魔法を使う。

 『超回復魔法』というのは字の通り、回復魔法の中で1番回復量が多い高位の魔法である。これを使える者はかなり少なく、使えるとしてもMP消費が多いために使用をためらわれる魔法だ。

 隆二の回復魔法により、一時的にHPを回復したキエルだが体中に回った毒は、まだ彼のHPを削る。

「おい、ノン!最上級ポーションをキエルさんに飲ませろ!そいつは状態異常も回復できる!」

「貴重な物なのでは!?」

「何個も持っているから大丈夫だ!俺はこの化け物を倒す!」

 宣言通り隆二はコカトリスに向かって攻撃を仕掛けに行く。

 ノンはキエルの口にポーションを流し込んだ。

 キエルのHP減少は止まり、HPもフル回復した。

 一方、キエルとは対照的にコカトリスの猛毒を食らわなかったオルリナは、剣をコカトリスに刺し込む。

 しかし。

 その剣はコカトリスに刺さることはなく、かすり傷1つも食らわせることもなく、強靭な肉体に阻まれた。

 怪物は自らを傷つけようとした弱者を徹底的に潰すため、猛毒を吐く準備をする。

 だが、コカトリスが猛毒を放つ前に、驚くオルリナを隆二が脇に抱えてコカトリスから距離を置く。

「何をやっているんだ!アンタは王子やらなんやらを守れ!出入口は塞がれているからそれしか方法はない。あの怪物は俺に任せろ!」

「しかし!あいつには攻撃が効きません!いくらレベルが高くてもあの猛毒を食らったらあなたもただじゃすみません!」

「そういう後のことは、その時に考える派なんだ。まあ、見てろ。そう易々と俺は死なねえよ」

 コカトリスから距離を置いたところにオルリナを脇から下ろし、隆二はもう1度コカトリスの元へ走る。

(猛毒を食らったらダメだってことは、食らわなきゃ問題ない。なら。俺が高速で動けば問題ない!)

 自分のステータスの力を存分に使い、スピードを上げる隆二。

 コカトリスの吐いた猛毒を躱し、持ち前のジャンプ力を使いコカトリスの頭上へ移動する。

 

 右の拳を強く握って。

 思いっきり振り下ろした。


 バゴォォォン!!と、殴られたコカトリスの体が部屋の床にめり込む。

「グギャアアアアア!!」

 そのままコカトリスは光の粒を撒き散らして消えた。

「うーしっ!オッケー。これで大丈夫だ」

 隆二の今の戦闘は、見た者が啞然とするほどの強さがあった。

 部屋に歓声が響き渡った。



***



 この時。

 この瞬間。

 この世界に来客が来た。

 その者はカツカツとブーツの音を響かせ、その場所を歩いていた。

 スマホを見て、今日の予定を言うような軽さでその者は呟いた。


「さて。『無に還し(ノンイレーズ)』はどこにいるのかな」


 悪意はすぐそこまで、歩んできている。



***



 フクロウの目から映し出される映像を見ながら、カウスター・クーベルは言った。

『そろそろ、他の世界の連中も無に還し(ノンイレーズ)の出現を感知した頃かね。だから、ああいう面倒くさい輩がこの世界にやって来たのか』

 カウスター・クーベルが前にグレア・バーリンと話していた時には、グレアの方がフクロウの目から映し出される映像を見ていたが、この魔法がグレアだけしか使えないというわけではなく、現にカウスターがその魔法を使っていた。

 どちらかと言えばグレアより、数十年前まで世界史上最凶魔導士と言われたカウスターの方が使える魔法は多いのである。

『それにしても』

 カウスターは憐れむような目で映像に映る少年を見ながら言った。


『皮肉なものだな。世界を救う力を持っているというのに。どんな時代でも。どんな世界でも。無に還し(ノンイレーズ)の周囲には悪意が集まるとは』


 1つ付け足すように、カウスターは呟いた。


『まあ私も、その1人なんだがね』

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