限界突破の行方
宿屋で部屋を借りた隆二は、そのままベットにダイブする。
エクストラスキルを解除しようとスキル表を開こうとしたとき、隆二の目にある数字が見えた。
《『無に還し』発動時間》
発動時間、28分。残り発動可能時間、32分。
『無に還し』は、発動分数×10、発動後に動けなくなる。
つまり隆二は280分、4時間40分間行動不能というわけだ。
「うへえ…」
思わず声が出る。
これ以上行動不能時間が延びるのは嫌なので、『無に還し』を解除する。
白髪は黒髪に、金色の目は黒色の目に。発動前の姿に戻った。
解除したため隆二は動けないのだが、この動けない感覚が非常に気持ち悪いのである。
動きそうで動かない、というのが1番気持ち悪い。
(何もすることねえな…)
先ほどまでの戦闘が嘘のように、この場には静寂が訪れていた。
「寝るか」
隆二は呟いて、目を閉じた。
***
「おや、この騒ぎは何かと思えば、首謀者はあなたですか?ステルダム国王女エミリー・スチュアート様」
エミリー達のところに来た騎士団の長と思われる男は、最初の一言をこう言った。
「な!?私達はその騒ぎを収める為に戦っていたんです!!」
すかさず、テミスが反論する。
「なるほど。それは有難いですね。私達が収拾する手間が省けました」
そこで、何かに気づいたような素振りを見せた男は、
「申し遅れました。ストラスフォード国騎士団団長、キエル・デュランダです。以後お見知りおきを」
そう言って深々と頭を下げるキエル。
「キエルさんですね。お話、父から伺っております。同盟国の騎士が集まって1番強い者を決める大会で、5年連続で優勝しているとか」
「エミリー様に知っていただいているとは、光栄です」
キエルを持ち上げながらも、エミリーが1番強いと思っているのは師である隆二なのである。
「何か私達に聞きたいことでもありますか?」
「そうですね…。明日でいいです。明日、我々の国の王女と、エミリー様にとっての大事な集会のようなものがあるので、その時にこの騒ぎに関わった者を呼んでいただけませんか?」
「集会?」
そのような集会が開かれることなどエミリーはマクルスから知らされていない。
彼女の予想では、自分達が城を出た後に2人の王が勝手に決めた可能性が高い。
「まあ、明日になればわかります。それではよろしくお願い致します」
深々ともう1度礼をした後、キエルは騎士団を連れて帰っていった。
「さあ、私達も帰ろうか」
「あ、私隆二さんがいる宿屋に向かいます」
「そうね、師匠に会いにいかないと」
エミリー達はまず最初に隆二のいる宿屋を目標地点とした。
歩きながらエミリーがノンに問い掛ける。
「そういえばあの男は、ノンちゃんを追いかけてきたみたいだけど何で狙われていたの?」
あの男とは、ルイス・ハーンのことだろう。
「『世界の記述』という本の場所を知りたかったみたいです。まあ、私と隆二さんが狙われた理由はわかりませんが」
「へえ~!『世界の記述』っていう本があるんだ。今度私に教えてくれない?」
「いいですよ」
エミリーとノンは楽しそうに会話をしているが、テミスは一定の緊張感を持って歩いている。
さっきのこともあるし、彼女は元々エミリーの侍従なのでエミリーの安全を守るためにも気は抜けないのである。
「ところで何をしに師匠とノンちゃんはここに来たの?」
「最初の目的は『限界突破』を探しにダンジョンに行こうとしていたんです」
「『限界突破』って何?」
そこで、2人の話を聞いていたテミスが口を開く。
「書物では有名な果物のような実です。まあ、単なる作り話だろうと考えられていますが。その実を食べると、レベルの上限を突破できるみたいですよ」
「レベルの上限っていくつなんだろう。でも、作り話ならノンちゃん達は探す意味がないんじゃない?」
「いえ、『世界の記述』に『限界突破』がある場所が書いてあったんですよ。そういえば、隆二さんは『限界突破』を手に入れたんでしょうか」
そんなことを話すこともなく、隆二がワープで宿屋まですっ飛んでいってしまったので謎のままだ。
まあ、当の本人はただいま呑気にベットで寝ているのだが。




