唯一の突破口
ワームの移動速度は決して速いものではないがその巨体の進む距離は、エミリー達の全速力とほぼ同じであった。
「私、テミスを見にいけるかな!?結構コイツ速いけど!!」
「今回は囮作戦はキツイですよ!さっきの連射で結構MPを消費したのでそこまで時間稼ぎはできません!」
会話をしている間にも、長い体をエミリーとノンの間に叩き落としてくる。
そこで、エミリーに横から声がかかった。
「テミスです!一応動けるまでには復活しました!これはどういう状況ですか!?」
「テミス!説明は後でするから、今は私とノンちゃんに付いてきて!」
「了解しました!」
エミリーの隣に並んでテミスも全速力で駆け出す。
幾度か攻撃を仕掛けられながらも、関所前まで来たエミリー達は去り際に兵士に指示を出す。
「後ろから化け物が来ているから逃げてください!」
「おいおい!今の騒ぎはあんたらか!どうやって逃げればいい!?すぐそこまで来てんだぞ!」
「あの怪物は私達しか狙いません!奴が通りすぎたら逃げてください!」
エミリー達が関所を突破した数秒後、ワームが関所の石壁を突き破りながら突破した。
できるだけストラスフォード国城下町から離れたところで戦闘を再開したいエミリー達は、そのままストラスフォード国とは反対に草原を突き進む。
そこで。
「おいおい!遠くまで逃げちゃうのはいただけないですねえ!」
重症を負ったと思われていたハットの男が、いつのまにかいくつもあるワームの体の1つに体を預けていた。
ルイス・ハーン。
「な!?お前はさっきテミスの攻撃を食らったはず!」
「いくらなんでも回復速度が早すぎます!肉体の再生は切り傷なら最低でも10数日かかるのに!」
エミリーとノンがルイスの肉体再生の早さに驚愕する。
その2人とは対照的にテミスは柄に手をかける。
「私がもう1回斬りましょうか?」
「いやいや~それは遠慮しておきたいですね。いくら『肉体再生』を持っていても刺された瞬間や再生するまでは相当痛いんですから!」
ルイスが『肉体再生』というエクストラスキルを持っていることなどエミリー達は知らないが、それでも彼女らは今のルイスの言葉で、すごく厄介なスキルを持っている、ということくらいは理解できた。
この短時間であの傷を再生したことから見るに、ルイスを攻撃しても絶命させなければまた回復する。
彼女らには、人を殺すという覚悟はない。
「これ以上先に進まれると厄介なので、もう1つモンスターを出してあげましょうか~?」
「敵を増やされるのは危険!もうここで戦おう!」
ワーム1匹で苦戦しているエミリー達としてはこれ以上敵が増えるのは看過できない。
エミリーは瞬時に状況を確認し、この場で戦うことを選択した。
「でも、突破口が見えません!エミリーさんと私の最大火力で攻撃しても、あの巨体全てを消滅させることはほぼ不可能です!!」
「じゃあどうしたら!」
「なら2人は作戦を考えてください!その間私は時間を稼ぎます!大丈夫です。今度はヘマしません!」
ワームの注意を自分に向けるためにテミスがワームの前に躍り出る。
「突破口は2つしかありません!ダメ元で2人合わせて最大火力の魔法を撃つか。それと可能性は低いですがエミリーさんかテミスさんがエクストラスキルを持っているのならば、それを使うか。私はエクストラスキルを持っていないので、エミリーさん達に希望を託すしかありません!」
エクストラスキル。
所持している者は極めて少ないが、それを使うだけで戦況を逆転させるほどの力がある。
エミリーはつい最近まで魔法が使えなかったため、少数しか所持していないエクストラスキルを確認したことなど1度も無かった。
エミリーは急いでエクストラスキルを確認する。
(お願い!これしか方法が無いの!)
この世界は時に残酷で。
時に。
希望で満ち溢れている。
突破口は開いた。
『限界突破』のあるダンジョンの戦い
現在の状況
神崎隆二…戦闘可能。エクストラスキル開放状態。現在地不明
ノン・マティス…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
エミリー・スチュアート…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
テミス・コロミー…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
ルイス・ハーン…戦闘中。現在地『ストラスフォード国城下町』
離脱者
オスカ・ヘンリー
仮面の男




