オスカとの戦闘(5)
『通信魔法』というのは離れた相手に要件を伝えるときなどに使う。
「ルイス、生きているのであろう?」
『オスカさんじゃねぇですかい!いやー結構危なかったけど、なんとか生き残りましたよ!』
隆二の耳に聞こえてきたのは、ハットの男の声。
「なら、ターゲットの小娘の方がストラスフォード国に逃げたから、お前が追ってくれ」
『あの仮面の男はどうします?』
「あいつはこちらが仕掛けなければ害はないのである」
トントン拍子に進んでいく話に隆二はついていけない。
『了解しました!じゃあターゲットを追います!目的はなんですかい?』
オスカは告ぐ。
「あの小娘は『世界の記述』のある場所を知っているのである。脅して連れていってもらえ」
瞬間、隆二の背筋に冷たいものが走った。
まさか、だった。まさか自分達の行動が全て敵に把握されていたとは。
「お前…!ノンを狙うつもりか!?」
「我はここにいるがな。部下に追わせる。だから我は言っただろう?本当にあの小娘を逃がせてよかったのか、とな」
よく考えたら、敵である男が自らの敵の心を心配することなどない。
『じゃあ俺はもう行きまっせ!』
「ちょっと待て!」
隆二の発言も虚しく、『通信魔法』は切られた。
「直ぐに終わらせてやる!」
エクストラスキルを開放する。
「『無に還し』!」
髪は白に、目は金色に。顔には白い線が描かれ、刀身は白に。体からは湧きおこる白いオーラ。
「なるほど。前の『無に還し』と姿は一緒のようであるな」
隆二はその言葉を無視すると、剣を構えオスカに突撃する。
オスカが隆二の剣を受け止めた瞬間、『白い爆発』起きた。
隆二は知らないが、呪文である『全てを無に還す』というのは『無に還し』の中の特殊な力を呼び寄せるためである。
呪文の唱える唱えないに関係なく、『白い爆発』は必ず起こるのである。
***
ドゴォォォ!!という盛大な音を響きかせながら、ダンジョンが崩壊していく。
「あれは…また『白い爆発』!?」
ストラスフォード国城下町で隆二を探すという当初の目的を完全スルーして観光していた、エミリーとテミスにもそれは目視できた。
「しかし『白い爆発』は世界樹の能力ではなかったのですか?」
「でも、あのダンジョンは多分師匠たちが行こうとしていたダンジョンだと思う。師匠はまた戦闘をしてるんじゃないかな?」
「もし『白い爆発』がリュウジさんのスキルだったら、毎回建造物を壊しているといつか訴えられますよ」
建造物破壊というのは日本と同じでこの世界でも重大な犯罪行為である。
「その話、今必要!?」
「そう遠くない未来に起こることです」
ダンジョンというのは、古代の遺跡であるので存在価値が高く、壊すと即牢屋行きである。
「とりあえず加勢しにいかないと!」
「ええ!行きましょう!」
エミリーとテミスはダンジョンの方向へ向かう。
***
時間を遡ること数分前。
ストラスフォード国関所前。
「ここまでテレポートするとは…」
ノンは隆二のテレポートにより、ここに来ていた。
普段の隆二ならストラスフォード国城下町までテレポートさせれたと思われるが、本人が焦っていたためか少し座標がずれたのである。
「リュウジさんの言う通りに、早く自分の村に向かおう」
自分には何もできない。
ノンは隆二とオスカの戦闘を見てそう思った。
単純にレベルが違いすぎる。
2人の激突はほとんどが自分では目で追えないような速さだった。
自分の戦闘スタイルへの持っていき方も段違いだった。
時々隆二にアドバイスはできたが、それをしなくても隆二ならなんとかしただろう。
そんな考えが彼女の頭の中で回る。
関所を超え、城下町に入ったノン。
馬車乗り場に行こうと考えたとき。
「やっと見つけましたよ!いやーまったく!こっちは自分はテレポートできないから時間がかかるんですよ!」
ハットの男の声がノンの耳に届いた。
『限界突破』のあるダンジョンの戦い
現在の状況
神崎隆二…戦闘中。エクストラスキル開放状態
ノン・マティス…戦闘可能。現在地『ストラスフォード国』城下町
オスカ・ヘンリー…戦闘中。エクストラスキル開放状態
ルイス・ハーン…戦闘可能。現在地『ストラスフォード国』城下町
仮面の男…戦闘可能。現在地不明