強制転移
市場で買い物をしながら、ポーション売りの男のことを考えてみる。
今までに情報が観覧できなかった人数は3人だ。
情報が観覧できない者が他にもたくさんいるのならば、一々反応していては疲れるのかもしれない。
しかし気になるものは調べたい派なので気になる。
あの男に特徴的な部分はなく、1つ不自然なのはハットを目が隠れるまで深く被っていたところだ。
日本で考えても、ああいう人物は不審者に分類されているだろう。
その不審者の情報は何時ものごとく無いので推測しかできないが、あいつは何か意図があって接触してきたのではないかと思う。
あの場には俺たちより冒険者に見えるヤツがいたはずだ。冒険者の中でも俺とノンの服装は簡素であり、見ようによっては村人にも商人にも見えるはずだ。その俺たちに冒険者と分かって接触してきたということは、俺たちの情報を事前に入手していた可能性がある。
考えすぎかもしれないが、警戒するに越したことはない。
***
「じゃあいっちょやっちゃいまーす!」
隆二とは対照的に無邪気な声を上げるルイス。
彼は隆二と接触時、しっかりと顔を確認し隆二たちを強制転移させる準備はできていた。
強制転移は面倒くさい『術式作成』や『術式重ね」はなく魔法名を唱えるだけで発動できるものだ。
「『テレポート』発動っ!」
ルイスの声を合図に、彼の足元と他の2人の足元に魔法陣が展開される。
「ショータァーイムの始まりですぜい!」
***
「なんだこれは!?」
「魔法陣!?」
俺とノンの足元に魔法陣が展開された。
俺の周囲に魔法を展開しているような人物は存在していない。
だとしたら、これは『遠距離魔法』というものだ。通常の魔法とは違い、数キロ先からでも魔法陣を展開させることができる。事前にその場所に魔法陣トラップを仕掛けることもあるが、特定の人物や場所を思い浮かべることで発動できる魔法もあるそうだ。これらの情報は全て魔導書から手に入れたものである。
この魔法陣が後者の『特定の人物か場所を思い浮かべる』遠距離魔法だった場合、思い当たるのはたった1人しかいない。
あのハットの男!
魔法陣を展開させた犯人が分かったところで、俺たちは魔法陣の光にのまれた。
あまりに眩しさに閉じていた目を開いて見えた光景は、石壁だった。
「ここはどこだ?」
「私たちが最初に来ようとしていたダンジョンです。私は一度入ったことがあるのでわかります。たぶん強制転移させられたようですね」
「ダンジョンの出口を見つけて、脱出したらいいんじゃないか?」
敵がそこまでバカだとは思わないが。
「そんなことできるわけがないでしょー!」
石畳の通路の奥から、笑い声と甲高い声が響き渡ってきた。
甲高い声の正体は、ハットを深く被った男。
「いやーお前たちがいきなり目的地変えちゃうからこっちが少しめんどくせぇことをするはめになったじゃないっすか」
「何故俺たちをターゲットにする?」
「私の上司がですねぇ特にお前を排除しておきたいって言ってたもんでね」
そう言うとハットの男は自分と俺たちとの空間に、魔法陣を展開させた。
「『テレポート』っ!お前らはコイツとまず戦ってもらいますぜ!」
魔法陣から出てくる影はどんどん大きくなっていく。
魔法陣を展開させ終えた、ハットの男は通路の奥へと歩き出した。
「俺は先の部屋で、お前らの無事をお願いしておきまっせ」