『必要となる』とき
俺とノンは馬車に乗りストラスフォード国を目指す。
「それにしてもリュウジさんはステルダム国の王女とどうやって知り合ったんですか?」
馬車に揺られるだけじゃつまらないので会話をしている。
「森でモンスターに襲われていたのを助けたときだな。それから特訓みたいのをすることになったんだ」
「へー!リュウジさんって強いんですか?」
「まあそれなりにはね」
その後も特に俺の話をして過ごした。
どんなクエストを受けたのかとか、どんなモンスターと戦ったのかとか。ジャンルは色々だったが、どの話も彼女は楽しそうに笑って聞いていた。
「そういえばノンの家族はどんな感じなの?」
あまりにも俺のことばかりなので聞いてみた。
すると、彼女は少し顔を曇らせた。
聞いてはいけない質問だったか?
俺は両親が死んでから時間が経っているからもう悲しくなることはないが、もし彼女の家族で誰かが死んでいたりしたらこの質問はつらいだろう。
「私の家族は母も父も健在です」
そして彼女はでも、と付け足した。
「姉のユリが病気を患っていまして」
声を落としながらそう言った。
「姉は冒険者だったのですがあるダンジョンで『状態異常』の攻撃をくらいました。普通の『状態異常』は時間経過によって効果が切れるのですが、その『状態異常』は特殊だったんです。普通に動けるし何も体に不便はないんですが、日に日にHPが減っていくんです」
「それならポーションで回復すればいいんじゃないか?」
「それは試しました。HPが減るのではなくHPの上限が減っていっていたのです。ポーションじゃ回復できないんですよ」
HPの上限が減っていく。これが何を表すかは彼女も分かっているのだろう。
それは死だ。その状態であと数日かあと数年か分からないが過ごしたら、姉のユリさんは確実に死ぬだろう。
普通はここで焦るのが正解かもしれない。どうにかしてユリさんを救おうと考えるのが正解だろう。
だが、俺はまったく別のことを考えていた。
なにかを忘れていると。
「何の対処法も思いつかなくて絶望していたときに、『世界の記述』という本で見たんです。『限界突破』という実の記述を」
「『限界突破』…!」
その実は知っている。
ここ2日あの情報屋が、俺がいつか『必要となる』として情報を提供してきたものだ。
まさか今が『必要となる』時なのか?
「『限界突破』を知っているんですか?」
彼女が俺の反応を見て聞いてきた。
「ああ。知っている。ちょっと気になったから調べたことがあるんだ」
「知っているんですね。なら『限界突破』の能力の詳しい説明は省きます。『限界突破』はレベルの上限を突破する他にもう1つ能力があったのです」
そんな話は情報屋からは聞いていない。
あの情報屋はまだ出会ってから数日しか経ってないが、腕はいいはずだ。
「もう1つの能力はステータスを大幅に上げることです。姉に『限界突破』を食べさせてステータスを上げることによって、姉のHPは一時的に増やすことができるはずなんです」
なるほど。一時的にだとしてもHPが増えるのはノンとしてもユリさんとしても嬉しいだろう。
だが、それでもまた時間が経てば同じことだ。
しかし、俺はまたしてもユリさんの心配ではなく違うことを考えていた。
やっぱり何かが引っかかる。何かを忘れている。そんな考えが頭の中であふれている。
「『世界の記述』という本には『限界突破』の場所も記述されていたんです。私が今回リュウジさんに依頼したダンジョンにあると記述されていました」
『限界突破』はある場所がわからないんじゃないのか?
情報が違うぞ!情報屋!
『世界の記述』とかいう本はどんだけ万能なんだ。そんな本があるならあの情報屋も知っていておかしくないんだが。
「私がリュウジさんに依頼したのは『限界突破』を手に入れるためです。私事ですがどうかよろしくお願いします」
彼女は深く頭を下げて言った。
「一度受諾した依頼は必ず遂行する。『限界突破』だろうがなんだろうが一緒に手に入れに行くよ」
「ありがとうございます!」
曇った顔は消え去り彼女は嬉しそうに答えた。
それにしても、やっぱなんか忘れているんだよな。
引っかかった言葉は『状態異常』と『ポーション』。
「ああっ!!」
「わっ!」
俺は思い出した拍子に大声を出してしまった。
「どっどうしたんですか?」
ノンが若干引き気味で聞いてくる。
「なあユリさんの『状態異常』って『最上級回複ポーション』で治せるんじゃないか?」
「確かに『最上級回復ポーション』では治せますが『最上級回復ポーション』は開発が遅れているために世界に存在しているのはほんの数個です」
「あるんだよ!!持ってんだよ俺!!」
「えっ!本当ですか!?どこで手に入れたんですか!?」
「えぇっと…あっ俺ってステルダム国王女の師匠だろ?だからその関係でステルダム国の王様に貰ったんだよ」
咄嗟に考えた言い訳だが、我ながらいい線いっていると思う。
「あるんですね!?これなら姉の『状態異常』をダンジョンに行かなくても治せます!!」
ノンは本当にうれしそうに言った。
それから数分。俺とノンは喜びで騒いでいた。
馬車の運転手が振り返るほどに。