情報屋
『情報屋』と会ったあと、俺は宿へ向かった。
最初の宿泊日数は5日だったが、30日に増やした。
別にそこまで増やさなくてもいいと思うが、金が有り余っているので気にしなくてもいい。
宿に帰った俺は今日の出来事を整理してみる。
1つ目は、世界樹討伐後に出会った謎の男のことだ。
あいつは俺に旧知の仲のように話しかけてきた。
あいつが言っていた『君』が俺なのか。
そうとは思えない。あいつは俺を見ているようで見ていなかった。
まるで俺の中を見ているようだった。
まあ、あいつの情報は観覧できなかったから推測しかできない状態なのだが。
次に『情報屋』だ。
1番の問題はあいつが俺が違う世界から来たことを知っていたことだ。
こいつも異世界人かと思ったが情報が見れないのなら分からない。
謎の男もそうだが、自分の情報を観覧できないように設定できるのか?
情報が足りないのでこちらも推測しか立てられない。
もう1つ気になるのがこいつが言っていた『限界突破』のことだ。
俺は別にこれ以上ステータスを強化するつもりはない。
でもまあここはおれが『限界突破』を必要とするときがくる、と仮定しよう。
では何故俺が『限界突破』を必要とすることがあいつは予想できた?
相手の心を見るスキルか。もしくは相手の未来を予知するスキルか。
どちらにしても情報が足りない。
あいつに接触してみるかと考えて今日は休むことにした。
翌朝俺は昨日の路地裏に向かった。
「いらっしゃイ~」
予想通り。『情報屋』は路地裏に置いてあるかごに腰かけていた。
「昨日教えなかったお前の名前か他の世界のことを教える気にはなったか?」
「いいヤ。教える気はなイ」
「まあそれはいい。昨日言っていた『限界突破』のことを詳しく教えてくれ」
「オ?気になっタ?」
こいつの名前や他の世界のことを聞けない以上、聞けることで1番気になったのは『限界突破』とこいつのスキルだ。
「内容も気になるが、その前に1つ聞きたいことがある」
「お前は『限界突破』の情報が俺がいつか『必要になる』と言った。何故俺が必要となることが分かる?お前のスキルか?」
「そいつは教えてやろウ。お前の未来を予知したわけじゃなイ。情報を仕入れ、そこからお前がその情報を必要とすると予想しただけダ」
となるとこいつのスキルじゃないということが分かった。
スキルだとしたら少し厄介だなと思っていたが、スキルじゃないなら俺としては嬉しい。
「なるほど。なら次は『限界突破』の深い情報を聞こうかな」
「オットー!そこからは料金をもらうゼ~」
そこからは情報料金がいるのか。
儲けてんな。
「何ゴールド?」
「10ダ」
ホイっとおれは情報屋にゴールドを投げる。
「毎度~!じゃあ教えるゼ。『限界突破』てのは前説明したように、ステータスの上限を突破する実のことダ」
「その実ってのはどんなものだ?」
「そうだナ~誰も手に入れたことがないから分からないガ普通の果物とかじゃないか、という予想が有力説ダ」
分かんねぇのかよ。情報屋でも分かんねぇこともあるんだな。
「話を戻すゾ~誰も手に入れたことがないから誰も『限界突破』がある場所を知らなイ。だが、いたんだよナ~『限界突破』を手に入れたやつガ」
「誰も手に入れたことがないんじゃなかったのか?」
「誰も手に入れたことがないという事実は少し間違っていル。手に入れたやつが1人いたんダ。だが、そいつが『限界突破』を入手したということを誰も知らなかったのサ。だから誰も手に入れたことがないという嘘の情報が出回ったんダ」
本当の情報とは違う情報が流れるというのは俺の元いた世界でもよくあったことだ。
伝言ゲームのように伝わっていって途中で事実が変わっていく。今回の『限界突破』の場合は最初の情報すら間違っていたということだ。
「手に入れた『やつ』の名前は分かんねぇのか?」
ここまで教えてもらったら気になる。
「そうだナ~名前は今回も伏せることにするヨ。まあ50年前の世界大戦終了間際に姿を消した男ダ。いつか知ることがあるだろウ。君にこの話をするのは少し時間が早すぎル」
そう言って情報屋はニヤリと笑った。
世界大戦なんてもんがあったのか。どの世界でも人類は争いばっかしてるってわけだ。
それにしてもあのときの謎の男と言い、この情報屋と言い、この世界のヤツは含みを持たせる言い方が好きなのか?
「まあ私が教えられる情報はこのくらいかナ。役に立ったかイ?」
「いや、そんなに」
「ナハハハハハ!そりゃそうだろうナ。『限界突破』の情報は場所すらも分かんねぇんだかラ」
果たして10ゴールドも払う必要があったかどうか。
『限界突破』の場所も昔入手したことがある男の名前も分からずじまいだ。
「情報ありがとう。いつか役に立つことを俺自身も願っておくよ」
俺の言葉を聞いた情報屋は唯一見える口を愉快そうに歪めて言った。
「くるサ。近いうちに。いや、もう、すぐそこに」




