世界樹の消滅
『白い爆発』。
それはエミリーやアンがいるダンジョンの外にも影響が起きた。
ダンジョンを中心に爆発が広がり、彼女たちの場所も危なくなってきていた。
「皆さん!私の後ろに避難してください!『空間防御』をします!」
エミリーは素早い判断で、ステルダム国の騎士団たちを集め空間防御でまとめて爆発から守った。
やがてエミリーたちの場所にも爆風が届く。爆風は白く、視界を完全に遮っていた。
爆風が止みエミリーたちが見たダンジョンは、もう原型をとどめていなかった。
半円状に地下深くまでえぐり取られ、周囲に生えていた木も丸ごと無くなっていた。
彼女たちが戦っていたモンスターも先ほどの爆風によって、全て消えていた。
「どれだけの威力の範囲攻撃なんだ…!?」
騎士団の誰かが呟いた。
エミリーもテミスもアンも、騎士団も誰もこれほどの威力の範囲攻撃を知らなかった。
そこで何かに気づいたエミリーが呟いた。
「師匠は…?師匠はどこにいるの…?」
エミリーの呟きが聞こえたアンとテミスは、思い出した。
(リュウジさんはどうなった!?)
これほどの威力の攻撃の中心にいたのであれば生きている可能性は極めて低い。
3人は急いでえぐり取られたダンジョンを上から見下ろす。
「いない…」
エミリーが小さな声で言う。
どれだけ目を凝らしても、地下深くまでえぐり取られた1番奥を見ることはできなかった。
「どこにいったの…」
アンやテミスはギリギリ平常心を保っていられた。
だが、エミリーは大粒の涙を流していた。
彼女にとって隆二という存在はかけがえのない存在だった。
魔法を使えるようにしてくれた人。
剣技を教えてくれた人。
自分が強くなっていくのが嬉しかった。
触れ合った時間は数日だったが、彼女にとっては人生で1番楽しい時間だったのだ。
「師匠……」
***
隆二のエクストラスキルによって、吹き飛んだダンジョン。
『白い爆発』の中心には1人の少年が立っていた。
「なんだこの能力は…」
隆二は思わず声が出た。
彼の攻撃とレインの攻撃が激突した瞬間。
レインの攻撃…世界樹の幹は消えたのだ。
もとからそこには何も無かったかのように。
一瞬で消えた。
レインの攻撃が消えたことにより彼の攻撃がレイン本体に向かった。
白い軌道を描いて。
彼の攻撃が当たったレインは彼の攻撃である『白い爆発』に巻き込まれた。
彼女も彼女の攻撃と同じように、何も残さず消えていた。
それほど『白い爆発』の威力が凄かったのか。
それとも『白い爆発』の特殊能力か。
それは分からない。
なぜなら彼の『無に還し』の説明には『説明不可』と表示されているからだ。
「…勝ったのか」
自分のエクストラスキルのことなど確かめることは色々とあるが、今は勝てたことに喜んでいいだろう。
だが隆二は、何が起こったかもわからないまま戦いが終わったのであまり実感が湧かなかった。
一応戦いが終わったのでエクストラスキルを解除しようとしたとき。
隆二は見た。
まだ『白い爆発』の影響で白く視界がほぼ遮られているダンジョン内に赤い光があった。
隆二にはその光があるものに見えた。
赤い2つの何者かの目。
「誰だ!?」
隆二は剣を構える。
―バサバサ……
赤い目はダンジョンの上空に上がっていく。
隆二も後を追う。
普段の彼はいくらステータスがカンストをしていても長時間空中に浮くことはできなかった。
だが、エクストラスキルの効果か分からないが、今彼は完全に空中に浮いていた。
まるで背に羽が生えたようにスイスイ上空に上がっていく。
隆二は赤い目を追いかけた。
きっと自分を心配してくれている人たちに謝ってから。
「ごめん。必ず帰ってくるから。少しだけ待っててくれ」