動き出した世界樹
エミリーに今日の特訓の成果を見てと言われて剣技を見た後、母上を呼んでほしいと言われたのでマクルスの部屋に一家全員がそろった。
するとエミリーは、ちょっと見ててといい杖を握った。
杖でなにをするのだろうとマクルスと妻のセリナは首を傾げた。
エミリーは魔法が使えない。両親ともにこのことは認識済みであった。
ステルダム国でも優秀な教師を雇い、エミリーが魔法を使えるようにしてくれと依頼をした。
だが、どの教師も魔法を使わせることはできなかった。
だからか、エミリーが杖を持ったときに両親ともに魔法を使おうとしているなんて思わなかったのである。
見ていたマクルスとセリナは驚いた。
エミリーが呪文を唱え、魔法陣を展開させたからだ。
「空間防御!!」
発生した魔法陣は無属性の白色だった。
魔法陣から出現した半透明の壁は半円を造り、エミリーを囲った。
エミリーが使ったのは中級魔法だった。
「お前…!!魔法が使えるようになったのか!?」
マクルスは問うた。
「うん。昨日ね私に師匠ができたんだ。すごく強くて、さっきの剣技も師匠に教えてもらったんだよ。それに、師匠は私と会った瞬間に私が何で魔法が使えないかを気づいて魔法を使えるようにしてくれたの」
そんな優秀な魔道士がこの国にいたのかとマクルスは驚愕した。
「誰だ!?そいつは?」
「リュウジさんっていうの。聞いたことないでしょ?多分異国の人よ。黒髪だったから」
リュウジ。そんな名前は聞いたことがない。
だが、その者の素性より先に礼を言わなければいけない。
「そのリュウジという者を今度ここに連れてきてくれないか?」
「分かったわ」
その後、マクルスとセリナ、エミリーはリュウジの話や使えるようになった魔法の話をした。
3人とも目が潤みながらも、長い間話した。
***
「というわけで、2人ともレベルが足りないので今日はダンジョンにレベル上げに行こうと思う」
「はい!ところで師匠。今日は服装が違うのですね?」
「まあ、気分だな」
今日俺はいつものロングコートではなく、異世界に来た当初の、前の世界のジップアップパーカーである。
というのも、久しぶりに着てみようかなと思って着てみたらエンチャント一覧画面が表示されたので選択したのだ。
『エンチャント』
『ジップアップパーカー』…耐久値アップ・破損部分自動再生・物理攻撃軽減・魔法攻撃軽減・攻撃力アップ
こんな感じで、ロングコートより微妙に強かったのでこれからはこれでいこうかと思っているのだ。
でも何故勝手にエンチャントされていたんだろう。謎は考えてみたが解決には至らなかった。
ちなみに、エミリーさんに「これは何ですか?」とジッパーを指差しながら言われたので、自作のボタン代わりのような物と曖昧に答えておいた。
そして、今日渡そうと思っていた武器。
「はい」
と言い、俺は『ケミニーホープ』をエミリーさんに渡す。
「これは?」
「エミリーさんの新しい杖だ」
「うれしいです!大事にします!」
エミリーさんは杖を抱きしめながら、言った。
テミスさんには剣を渡した。
「テミスさんはこれだ。切れ味は抜群だぞ。名前がないからテミスさんが決めてやってくれ」
「はい。ありがとうございます」
テミスさんはもらってすぐ素振りを始めた。
エミリーさんに武器の特殊能力を教えておいた。
2人とも気に入ってくれてよかった。
ダンジョンに入った俺たち。
「わ~!!これがダンジョンの中なのですね!!」
エミリーさんは楽しそうにあたりを見回す。テミスさんもダンジョンに入るのは初めてなのか、壁を触ったりしている。
「ほら行くぞ」
2人に声をかけ、ダンジョンの奥へと進む。
ダンジョンに入ってからおよそ2時間。
2人のレベルはそれぞれ、エミリーさんが『LEVEL85』テミスさんが『LEVEL97』だ。
2人とも30以上上がり、俺の予想より成長速度が速かった。
「すごい!レベルがこんなに上がってる!!」
少女たちはキャッキャと騒いでいる。
突如、それは起きた。
まず、床が消えた。
それだけなら、俺のスピードでなんとかなると思い動き出そうとしたとき。
ダンジョン内の至るところにあった世界樹の枝が俺たちに巻き付いた。
これでは動けないが、俺のステータスならまだ許容範囲内だ。一旦されるがままになってみよう。
「くっ!!」
テミスさんが巻かれている手首の枝を引きちぎろうとしているが、世界樹の枝に変化が起きることはなかった。
そして、世界樹の枝に巻き付かれた俺たちは床が消えた空間に落とされた。
深くまで行ったのちに、足が地面をとらえると世界樹の枝は巻き付くのを止め、頭上に消えていった。
この場所はどこだ。
「お前たちかぁ~?私の魔力を横取りしてんのわぁ~?」
突如前方から声がした。
奥の方を見てみると、暗闇の中にデカい影が見えた。
おいおい、ここは――ダンジョンのボス部屋じゃないか!?