危険なダンジョン
剣技や立ち回りを教えて3時間。
「そろそろ終わりにしようか。日も落ちたしね」
「は、はい!」
俺は何も汚れていないがエミリーさんやテミスさんは、攻撃を放つたびに俺に後方に飛ばされたので少し土を被っている。
「それにしても師匠は剣も達者でいらっしゃるのですね。どなたかに教わったのですか?」
「いや、自己流だ。前してた仕事に戦闘術が必要だったから」
戦闘職と言いたいところだが、この世界での戦闘職が何を指すのかが分からないので言わないようにしている。
「じゃあ、今日はここで解散」
「はい!ありがとうございました!」
エミリーさんとテミスさんに挨拶をして俺は宿屋へ向かう。
宿屋に帰った俺は自分の部屋で、『ケミニーホープ』の制作に取り組む。
作業はいたって簡単で、世界樹の枝に龍の目を埋め込むだけなのだが。
世界樹の枝は魔法攻撃1.3倍の付与効果がある。
そして、龍の目の効果は『魔力を貯める』『魔力を吸収』というものだ。
半径3メートルの空間にある魔力を吸収し、龍の目に貯めることができるという性能だ。
これにより魔力が底を尽きても、龍の目から補給できる。
また、吸収した魔力を自らが出した魔法に加えることで通常よりも威力を上げることができる。
数分後、『ケミニーホープ』は無事に完成した。
世界樹の枝に埋め込まれた龍の目は、赤く輝いている。
明日これをエミリーさんに渡そう。
ちなみに、テミスさんは剣が主武器なので、ホワイトウルフの爪と牙に世界樹の枝を加えることにより切れ味が抜群の剣が完成した。これをテミスさんに渡そうと思う。
2人とも今日見て分かったが、剣技はしっかりとしている。
でもレベルが足りない。
2人のレベルはエミリーさんが『LEVEL50』テミスさんが『LEVEL65』だ。
いくら剣技がしっかりとしていても、レベルが低ければ意味がない。
ということで、明日は俺が行ったダンジョンに行って2人のレベルを上げたいと思う。
***
「早急にそのダンジョンのボス及び建物を消し去らなければならん」
ステルダム国国王マクルス・スチュアートは執事から受けた報告にこう発言した。
報告内容は最近突如出現したダンジョンについてだ。
古代に造られたダンジョンは別に破壊などしない。
しかし、今回のダンジョンはイレギュラーなことが多すぎるがゆえにマクルスはダンジョンを消し去ることにしたのだ。
マクルスが受けた説明は正にイレギュラーな部分についてだ。
1つ目は、何もなかった場所に一夜にしてダンジョンが出現したのである。
ステルダム国の領地は騎士団によってすべて何がどこにあるかは確認済みであった。しかも、ダンジョンが出現したすぐ近くには、ステルダム国第3位の繁栄都市『シェッツルガルド』がある。
そこの農民たちが前日と同じように森に木こりに行ったら、前日にはなかった地下空間を見つけたという。そこもすでに騎士団が確認済みだったのだが、確認した当初の時点ではそのダンジョンは無かったのである。
ただ単にその時は土で埋まって気づかなかっただけでは?という疑問が湧くが騎士団が『空間認識』の魔法を使って、地下に空間がないか確認をしたのでその疑問は解消される。
つまり、そのダンジョンは突如出現した可能性が確定された。
2つ目は、そのダンジョンから出てきている木の枝だ。
害がないのであればそのまま放置しても構わない。
しかし、害があるのだ。
ダンジョンから出た木の枝は『シェッツルガルド』まで届き、木の枝から根のようなものが発生し、都市の水を吸いまくっているのだ。
都市の植物はほとんどが枯れ、生活用水もなくなってしまった。
それを解決するべく騎士団が都市に行き、枝や根を切り落としたがその部分はすぐに再生し、代わりに切り落とされた枝や根は、人食い草で有名な『メンケン・グレス』になり都市を襲った。
これらの報告を聞き、マクルスはダンジョン及びダンジョン内にいると思われるボスの討伐を指示したのだ。ダンジョン侵入は3日後。
「父上~!!私の今日の特訓の成果を見てくださいませ!」
突如マクルスの部屋に入ってきた最愛の娘エミリー。
マクルスは報告書をしまい、エミリーと話す。
そういえば、最近エミリーの帰宅時間が遅れているのはなぜだろう。
マクルスはその事をエミリーに聞こうと考えながらも、エミリーの特訓の成果を静かに見守った。