片思いから
「はっ、はっ、はぁ……」
息も絶え絶えに、アイツが来るはずの改札に走る俺。ようやく会える。やっと言える。その気持ちを胸に、駅へ走り続ける。
「はぁっ、はぁ……。」
ようやくついた。アイツはまだ居ない。間に合ったか……。
息を整えつつ、脇にある自動販売機で、水を買う。
「……ぷはぁ。」
「ケイン遅い。」
「ぶぁっ!?」
そいつは呆れ顔で、自動販売機から、少し離れた場所に居た。
「す、すまん!!」
「……ケインが遅刻するのは、分かりきってるから、いいけど?」
明らかに怒ってる。あとで何かされそうなのに怯えながらも、なだめる。
「……悪かったって。機嫌直してくれよー、マリー。」
「じゃ、あとでアイス奢りね。トリプルで。」
「へいへい。」
「……っと。その前に言う事あるんじゃないの?」
「あぁ。おかえり、マリー。」
俺はケイン。灰色と白い毛並みの狼獣人。隣で少し不機嫌な女性がマリー。同じく狼獣人で、金色と白い毛並み。……俺の片思いの人。思いはまだ伝えてない。
俺とマリーは、小さい頃から家が近くで、よく遊んでた。……正確には、マリーにいじめられてた気がしないでも無いが。
ちなみに、年は3つ離れてる。マリーの方が上。年の話をしたら、とても危険な目に遭うので言わないけど。だから俺は今、大学4年生。マリーは社会人。まぁ、俺もこの間就職が決まったから、来年からようやく社会人。
「何、ボーッとしてるの?」
「んー。マリーはいつも綺麗だなーって。」
「はいはい、世辞とかつまんないから。」
しばらくして、アイス屋に着く。
「すいませーん。バニラとチョコとストロベリーのトリプル1つと、カフェオレ1つと、水1つくださいー。勘定は、そこの灰色のに言ってね♪」
「待て、俺は水か!?
つーか、学生に本気でたかるのかよ?!」
「そうだけど?」
「はぁ……分かりました。」
溜め息と一緒に、尻尾も垂れる。マリーは逆に少し尻尾が揺れて、夕日に光る毛並みに少し見惚れる。
「さーて。"マリー姉さん"が帰ってきたんだから、何か用意くらいしてるよね?」
席に座りながら見つめられる。
「ばっ……あ、あるに決まってるだろ!?」
余りにも顔が近いから、そっぽを向きながら答える。
「ふぅーん。じゃあ期待してましょうかね。
あ、アイス来たー♪」
アイスを美味しそうに食べてるのを見ながら、自分のコートのポケットを探る。四角い箱に指が当たり、少し緊張する。
(……今日こそは)
自分に言い聞かせ、食べ終わるのを待つ。せめて、アイスだけ頼めば良かったと思った。
「んー、久しぶりにアイス食べたっ♪」
「アイスくらい、いつでも食べられるんじゃ?」
「ここのとこ、忙しかったからねぇ。ようやく出来た休日だし。」
「……ふーん。」
そうやって話してたら、今日の夕食を食べるレストランに到着。
「……高いわよ、ここ。大丈夫なの?」
「だ、大丈夫。」
マリーとは違った緊張に包まれながら、予約した席に向かう。
「さすが、三ツ星に選ばれるレストランね……。ケイン、無理しなくても、私が出すよ?」
「ん……大丈夫だから。」
ボーイさんを呼んで、メニューを注文する。
しばらくして、料理が運ばれてきた。お互いに言葉少なに食事する。
「ふぅ、食べた食べたー。
ケイン、ごちそうさまっ♪」
「う、うん。」
……結局言えなかった。帰りに二人で歩いてると、噴水がある広い公園に出る。
「ここ、新しく出来たんだ。」
「うん、マリーが社会人になって、3年間の間に。確か、去年出来たんだっけな。」
「ふーん……。」
俺達が噴水の前に着いた時、ちょうど噴水が噴き上がる。夜の噴水がライトに当たり、様々な色の水玉が広がる。
「綺麗……。」
「うん。」
暫く二人で噴水に見惚れる。
(……これなら言えるかも)
「さーって。寒くなる前に帰るかー。」
「あっ、あのさ!!」
「?」
もう、今しかない。
「これ、受け取って貰えるかな。」
四角い箱を慌てながら、両手で差し出す。お辞儀したみたいな格好になってて、俺……格好悪い。
「開けて……いい?」
「う、うん。」
開けた時のマリーの顔が見たくて、顔だけを上げる。
…………あれ、ダメ?
「……ぷっ。ケイン、格好悪いよ。」
「だっ、だってしょうがないだろっ!?
プロポーズするの、初めてだし……。」
「ま、合格かな。よき頑張りましたっと♪」
俺は少し膨れながら、マリーを見上げる。マリーの方が、10cmくらい身長高いし。
「指輪……はめてみてよ。」
マリーの指にすっぽりはまる、銀色の指輪。感慨深そうに指輪を見つめてる。
「……ありがと。これだけ?」
「これだけって……。」
ぐったりと肩を落としてうなだれる俺。
「分かったわよ。感謝してるってば。
……で、ちゃんと言ってくれないの?」
「いっ、今からっ!!」
深呼吸してから、マリーを真っ直ぐ見て。
「昔から好きでした。
マリーさん。……結婚、して貰えますか。」
「はい。喜んで。」
=完=




