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第四話 強風と雷電

 一般的に新兵器は機密保持のため国民に向けて宣伝されないものだが、当時バリバリの新型機であるはずの二式水戦、二式局戦は意外な理由で世間に大きく知れ渡ることになる。それは昭和十七年(1942年)四月のドーリットル空襲での活躍によるものであった。


 開戦以来、良いところ無く日本に押されっぱなしの米軍は、空母に陸上爆撃機であるB-25を載せ、日本を爆撃するという作戦を敢行した。もちろんB-25に空母着艦能力などないため、離艦した彼らは目標を爆撃後、日本海を抜けて中国へ着陸するという段取りになっていた。その投機的な作戦には軍事的な意味など無く、開戦以来負け続きで落ち込んだ軍と国民の士気を高揚することが目的であった。


 当時厚木基地には、ラバウル進出に向けて編成された二式局戦隊の第一陣が、川西から領収したばかりの、3個分隊27機の二式局戦一一型(増加試作と初期量産型)で訓練中であった。そしてこの日、関東各地が空襲を受け、その内1機が厚木飛行場に近づいてる報せを受けた彼らは直ちに全力出撃を行い、1個分隊9機を厚木に接近中の1機へ、残り18機を東京方面へ向かわせた。


 厚木に接近していた1機は、この作戦を指揮するドーリットル中佐の座上する1番機であった。東京空襲に成功し、追撃してくる陸軍の九七式戦闘機を振り切った彼らが一息ついたところに、恐ろしく速度の速い、初めて見る戦闘機が襲い掛かってきた。本作戦のために機銃のほとんどを降ろしていた彼らに反撃の手段はなく、たった1機に対して9機もの新型機という過剰な戦力に襲われた彼らは脱出する間もなくあっという間に撃墜されてしまう。


 東京方面に向かった2分隊18機も、北東方向からバラバラにが向かってくる数機のB-25を発見し、2機を撃墜、2機を撃破の戦果をあげている。(撃破機はその後洋上で行方不明)


 二式局戦が活躍する一方、二式水戦も活躍していた。同日、横須賀ではマリアナ方面に進出する第六根拠地隊向けの二式水戦1個分隊9機が訓練中であった。そこへ東京が空襲を受けている報告がもたらされる。横須賀も空襲される恐れがあるため、全機が上空待機していたところ、横須賀に低空から向かってくるB-25を発見した。二式水戦は新型機とはいえ水上機のため敵機より低速であったものの、たった一度の襲撃機会を逃すことなく捉え見事撃墜に成功する。


 結果的に米軍は本作戦で隊長のドーリットル中佐機を含む16機中6機を損失した。しかし目的である日本本土の爆撃には成功したことから彼らを英雄として讃え戦意の高揚に成功している。また計画より早く艦隊が発見された事と多数の機体を損失した事から日本本土の哨戒・防空体制と新型機を過剰に評価することになる。


 一方日本では、索敵や防空体制の不備が大問題となっていた。しかし多数の敵機を見慣れない友軍戦闘機が撃墜した事は地上から多くの国民にも目撃されており、新聞も大々的にその戦果を報じている。かなりの偶然に助けられたとは言え、その立役者となった二式局戦と二式水戦は期待の高性能新型戦闘機として大いに名をあげることとなった。


 本来この迎撃戦では海軍の不手際が多かったのであるが、この功績により責任の所在や対策はうやむやとなってしまった。その上、世間の評判に気をよくした海軍は、二式局戦、二式水戦に今年より始まった新たな命名規則を遡って適用し、それぞれ「雷電」「強風」と命名し大いに宣伝した。当然川西には雷電の大増産を命じるとともに川西の生産力では要求数を賄えないことから中島に対しても雷電の生産を命じた。


 初の本土空襲に官民皆が青ざめる中、龍三の高笑いが再びこだました。




「社長、さすがにちょっと不謹慎だと思います。特高に引っ張られても知りませんよ」

「たしかに勝って兜の緒を締めよと言うしな。海軍さんの方は浮かれとるみたいやが……」

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