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第一話 十五試水戦

 兵庫県に本社を置く新明和工業は、戦時中は川西航空機という社名で各種軍用機を生産していたことで知られる。神戸市東灘区に位置する甲南工場では海上自衛隊向けのUS-2飛行艇を生産しているが、当時は甲南製作所と呼ばれ二式飛行艇を生産していた。


 その甲南工場に隣接するショッピングモール「サンシャインワーフ神戸」の一角にガラス張りの建物がある。週末は家族連れや恋人たちで賑わうショッピングモールだが、その小さな体育館ほどの大きさの建物はモールの中でひときわ異彩を放っていた。


 無料開放されている建物の中には三機の古めかしいプロペラ機が展示されている。一機は四発の大型飛行艇、残りの二機は単発の小型機であった。いずれも濃緑色と明灰白色に塗り分けられ日の丸をつけている。旧日本海軍の「二式飛行艇」と局地戦闘機「雷電」「震電」である。


 既に製造されて一世紀近く経つはずだが、驚くことにその全てが現在でも飛行可能な状態を保っている。たまに自衛隊の航空ショーや基地開放日に姿を現すのでご存じの方も多いだろう。特に雷電については戦時中もっとも活躍した日本機として有名であり人気も高い。



 しかし雷電は、とある漢達の情熱が無ければ本来この世に生まれていなかった戦闘機かもしれない。そして雷電が無ければ戦争も、そして今の日本もまた違った歴史を歩んでいたかもしれない。



 昭和十四年(1939年)欧州で戦争がはじまり日本でも欧米との戦争気運が高まりつつある中、日本海軍の懸念事項はいかに前線へ航空戦力を速やかに展開するかであった。飛行場の完成まで基地設営隊を敵の攻撃から守る必要があるが、空母機動部隊を貼り付けておくこともできない。


 そこで海軍は飛行場完成までの制空権確保を目的として本格的な水上戦闘機の開発を決定し、昭和十五年(1940年)九月に十五試水上戦闘機として川西航空機に試作を指示した。


 海軍からの内示段階では使用するエンジンとして三菱の火星一一型(空冷14気筒1500hp)と友邦ドイツのダイムラーベンツDB601(液冷12気筒1200hp)が提示されていた。しかし第二次大戦の勃発によりDB601の製品・技術導入の伝手が途絶えたことで火星エンジンしか選択肢がなくなる。


 火星エンジンは、当時三菱が試作中の十四試局地戦闘機にも指定されている。前述のエンジン選定の混乱から、十四試局戦のエンジンが火星に決定したのは今年に入ってからであり、三菱が要求仕様を受け取ったのはこの四月であった。川西が十五試水戦の試作指示を受け取るわずか5ヶ月前でしかない。どちらも敵爆撃機の邀撃が主目的であることから、十五試水戦と十四試局戦は水上機と陸上機の違いはあれど双子の様な機体であった。


 火星エンジンは本来、爆撃機用の大型エンジンであるため直径が1340mmもある。機体デザインでこの大直径エンジンをどう処理したかが、この先両機の明暗を分けることとなる。



 川西では菊原静男が設計を担当した。彼は世界水準の九七式飛行艇を設計した優秀な技術者である。


 今回の要求仕様の最優先事項は速度である。機体の基本設計にあたり、菊原は大直径の火星エンジンからくる空気抵抗の対策が高速発揮のための課題と考えた。


 そこで当初の機体案では、三菱の十四試局戦と同様にプロペラ延長軸により機首を絞り、胴体を紡錘形状とした。更に主翼と胴体接合部の抵抗を小さくするため中翼形式とし、翼型には高速に適した最新の層流翼を採用した。そして高翼面荷重となった機体の運動性を確保するため新開発の自動空戦フラップを装備。


 水上機の要である浮舟フロートは、速度と空中での機動性を優先し単舟形式とし、水上滑走中に問題となることが予想される火星エンジンの強大なトルクは同社で開発中の十四試水偵同様、二重反転プロペラにより打ち消すものとした。


 こうしてまとまった基本案は、三菱が開発中の十四試局戦を中翼にして浮舟に載せたようなものとなった。


 菊原はこの新機軸を盛り込んだ基本案を自信満々で社長の川西龍三に説明した。しかし結果はいきなりの罵声であった。



「このダボが!こんなモンに会社の将来を賭けれるか!」

史実では1941年12月から検討が開始された強風の陸上機化が1年以上前から始められます。この世界の川西龍三はアグレッシブです。

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