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いつか結びて月に咲く  作者: クエルア
welcome to the another world
9/14

第8話 背負い投げを体術と言っていいのか

短い

 

「よっし、いつでもいいぞ。」

「あぁ」


 グリーの家から数分歩いたところに、ある程度開けた場所があるということでそこに行くことになった。


「じゃあ、始めるか」

「おk」


「おうけい?」

「わかったってこと」

「なるほど」


 グリーと咲は、5メートル離れて向かい合う。

 このときになって少し場に緊張がはしるのが分かる。空気がぴりぴりする、とは恐らくこの事なのだろう。


 「一応ルールは言っとくぞ。場外等のルールは無し。急所以外どこを狙ってもいい。対人戦だから大規模な魔導は禁止。というか咲がまだ魔法をそもそも使えないから全部禁止な。魔力開放は無し。殺さないようにそれだけだな。」


ルベルトがルールを説明した。


「もう試合開始するぞ?」

「おう」

「ああ」


 審判はルベルトが勤めるらしく、舞は離れたところから観戦してる。


「結月君!怪我したらだめだよ!」


 メイド服姿で応援する様はなかなか見ていて華がある。しかしいつまで着てるんだ、と心の中で咲が叫んだことは咲以外には預かり知らぬことであった。







「はじめ!!」


 ルベルトが試合開始を宣言した。

 その直後、咲は驚くべきものを見た。それは一瞬にして5メートルもの間合いを潰してくるグリーの姿だった。正に俊足。重心がぶれていないので、近づいてくる軌道が分からず、咲には瞬間的に目の前に移動したかのように見えた。古流武術の『瞬歩』によく似ている。流石に試合開始直後にやるとは思わなかったが。しかし。


(はやっ!?)


 そのグリーの作戦(?)は、ある意味成功と言えるのだろう。予想もしていなかったので咲の中には、少なからず動揺が見えた。まあ作戦などではなく、ただ単にグリーが脳筋なだけで、何も考えずに突進しただけなのだが。

 顔面左側に迫りくるはゴツゴツとして当たると痛そうな拳。グリーの右ストレートをなんとか認知した咲は、それを手でいなしながら、身体を無理矢理拳進行方向に合わせて回転することで回避する。通常のそれとは全く異なり、相手の内側に体を滑り込ませながらそれを行う。


(あっぶねぇ!)


 咲はグリーの腕が伸びきる前に右腕を捕まえ、グリーの胸ぐらを掴む。

 咲の耳に、息を飲む音が聞こえた。

 腕が捕まえられたことで、何かしら行動を起こそうとしているのだろうが


(遅いっ)


 その瞬間、グリーを襲うは浮遊感。


「なっ!?」


 持ち上げられるとは思ってもいなかったのだろう。

 咲は、回転した勢いを利用してグリーの右腕を左手で引き込み、体を沈みこませ、立ち上がると同時に右手で持ち上げた。

『背負い投げ』

 咲が使用した技の名前である。

 別に特段珍しい技術ではない。男の高校生なら、ほとんどの人が体育の授業で体験したことがあるであろう一般的な投げ技であった。しかし、グリーが驚いたのはそこではなかった。


(速いっ……!)


 そう、速すぎて動きを認知できなかったのであった。そもそも、グリーはギルドマスターという役職に就く前はれっきとした冒険者であった。人並み以上には体術は会得していた。というか『元』がつくとはいえ、『S』クラスの冒険者であった。なので、こんな『技』があったのか、という点では驚いていたが、『なぜ投げられているのか』という点については驚いていない。

 では何に驚いたのか。普通、相手の行動、攻撃速度がものすごく速かったとしても、何かしらしている、ということは認知できるはずなのである。そして何らかのアクションをとる。無意識で防御、もしくは受け身をとったり、身構えたり、縮こまったり。それが多少遅れたとしても、その体は、攻撃を受けたあとに遅れて意味のない防御をする。

 しかし、咲の動きはグリーの反射神経を凌駕した。

 まるで何をされたかグリーにはわからなかったのだ。滑らかに、自然に、圧倒的なスピードで懐に入り込まれた。その事にグリーは驚いているのであった。

 無駄を徹底的に排除した合理的な動き。咲のそれは、人体を極限まで理解していないと出来ない動きであった。

『神速』、と表現するにふさわしいスピードであった。



 グリーが地面に叩きつけられる。

「…………………ぁがっ!」



 ドンっ!



 まず土煙があがった。同時に地面にヒビが入る。次に、まるで二人を中心にして吹いてくるような風。



 土煙が晴れた後にそこに現れたのは。




 地面にめり込んだグリーと、何か思案顔の咲であった。










 異世界で体術チートは基本。(別にチートでもなんでもない)


 とか思っていたのだが…………………。


 咲は二つのことに驚いていた。

 1つは、『自分が少しでも本気を出すとヤバイ』ということであった。日本にいたときはここまで身体能力は高くなかったはずである。

 あっちで身につけた技術と、こっちでなぜか分からないが身に付いてしまった力を同時に使うと、人を殺してしまう。ということが今の闘いではっきりわかった。というか、こんな力などなくとも、日本でなら、技術だけで人を殺せることも咲は理解した。『護身術』という名目でやり始めた稽古であったが、これはさすがに『護身術』ではないことはわかる。咲は、あっちでこれを使わなくてよかった、と冷や汗をかいていた。


 じいちゃんばあちゃんは俺に何をさせるつもりだったんだ…………。



 そして、もう1つ。

 それは、グリーがあの状態から受け身をとったことであった。

 咲は投げたとき、自分の力に気づいて、『やってしまった』と思った。

 まさかここまで完璧に決まるとも思わなかったし、こんなに力があるとは思いもしなかった咲。

『力の加減をしくじった』と思ったのだ。

 しかし、もう腰で持ち上げてグリーの体は宙に浮いており、この行動はもうキャンセル出来そうにない。グリーは大怪我確実だろう、と咲は結論づけた。諦めて投げきる。


 するとどうだろうか。


 グリーはあの不意をつかれた投げに対応して衝撃を流したではないか。

 これには咲も目を見張った。

 咲は、自分ならどうだろうかと思案する。

 しかし、自分が同じ状況であるなら、受け身はとれそうもない。

 グリーは受けがものすごく強い男なのだろう。

 咲はそんなことを思った。











 勝負は一瞬でついた。

 時間にして僅か数秒。

 咲が観客席(そんなものはない)側に目を向ける。

 すると


「これは…………」

「えっもう終わったの!?見てない!もっかいやって!結月君!」


 ルベルトは目の前の出来事に呆然としており、鈴木は目を逸らしていたようでみていなかったらしい。アンコールの声が聞こえるがグリーは気絶しているしそれは無理な相談である。


「ルベルト、グリー持つの手伝ってくれ」

「あ、あぁ」

「私は?」

「グリーの家に先にいって茶でもいれとけばいいんじゃないか?」

「そうする!」


 鈴木は走って家の方に消え去った。


「んじゃあそっちもってくれない?俺はこっち持つから。」

「分かった。」



 異世界初めての戦闘は俺の勝ちで終わった。


筆が遅い

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