第7話 500年前の英雄『勇みし者』
「結論からいうと俺は魔法が使えない」
グリーの家に入って、なぜか知らないがメイド服姿の舞が持ってきた紅茶をすすりながら、リラックスしている二人に咲は言った。
「あー、そう言えばそんな話してたな」
忘れるの速すぎだろ、アルツハイマーかよ
「アルツハイマー?」
どうやら口に出ていたらしい。
「いや、いい。わすれてくれ」
そして咲も、テーブルの上に置いてある紅茶を一口啜すする。
「で、だ。」
「なんだ、まだなんかあるのか」
同じく紅茶を啜りながら返答したのはルベルトだ。
グリーはというと「嬢ちゃん!おかわりくれ!」と台所に向かって叫んでいる。そんな大声出さなくても聞こえると思うが。律儀に「はいっ。ただいまいきますー」という舞の声が聞こえてきた。
というか、俺らまだあって間もないのにこれは順応しすぎでは。
「魔法は使えなかった…………が」
「が?」
「魔導は使えるらしい」
「ゴフっ!?」
「うおっ!?きったねぇな!ちゃんと拭いとけよ!」
ルベルトの隣にいたグリーが声を荒げた。
うん。リアルに吹いたな。しかも鼻からも少しでてる。逆流でもしてしまったのだろう。
痛そう。
「それは本当なのか!?」
「あ?何の話だ?」
「そうステータスに書いてあるからな」
「だって、そんな…………そんな事例聞いたことないぞ!?」
「だから何の話なんだよ……」
グリーは話を最初から聞いていなかったので、何の話をしているのかわからないようだ。
「だからっ!魔法が使えないのに魔導だけつかえるっていうんだぜ!?そんなこと聞いたことないだろ!?」
「ん?あるぞ。聞いたこと」
「だろ!?だから……っはぁ!?」
久しぶりにノリ突っ込みというのをみた。下手したらさっきのは芸人並みに上手かった。
というか驚きすぎだ。見た目30過ぎくらいのおっさんがこうまで取り乱すのを見てるとなんか大人ってなんなんだろうと思ってしまう。
「いや、だって、はぁ!?あるの!?」
「うっせぇなぁ。いい加減落ち着け」
「いや、だからっ………………そうだな。一旦落ち着こうか」
ルベルトが深呼吸して息を鎮めていると。舞が
「はい、お菓子です」
といってなんだかよくわからないものを置いて去っていった。
…………これほんとに菓子か?
ちなみにまだメイド服着てた。もう脱げや。
「っふう。よし、もう大丈夫だ」
「よし、で、何の話だっけか?」
グリーはほんとに忘れるのが速い。
「魔法が使えないのに魔導だけ使える事例が過去にあるのかどうかだったろ」
「おお。そうだったな。すまん、サキ」
「で、それでそいつはどんな奴なんだよ」
「そうだなぁ……」
グリーが背もたれによりかかっていた背を起こしながら話始める。
座りなおす度にギシギシとなる椅子を納得がいったかのようにポンと叩いた。
「そうだ。たしかな。名簿でみたんだ」
「名簿?」
いったい何の名簿だろうか。と思案顔の咲。
「500年ぐらい前にな、魔王という悪魔族の王がいたらしい。」
「ほぅ」
「その魔王ってのに人類が迫害されたのかなんなのかはしらんが、とにかく絶滅の危機って奴だったらしくてな。それでどっかの国が『勇者召喚』ていう儀式をやったんだ。なんでも、異世界から『勇者』という称号をもつ黒目黒髪の人物を呼び寄せるためのものらしい。んで、そいつが召喚されてギルドに入ったんだが、そのときのギルドカードのデータに魔導しか使えないとかいう特筆事項があったような気がする。」
「……へぇ。」
つまり先代勇者というわけか。まあ俺は勇者じゃないから先代もくそもないんだがな。
咲は深くため息をつく。
勇者という称号がないにも関わらず、魔導だけつかえるというこの事実に後々振り回されそうでたまらない。
そんな思いが心中をさまよっていた。
そういえば鈴木のステータス確認してないな。
後で確認するか。
「でも、なんでグリーはそんな500年まえのことなんて知ってるんだ」
「なんだサキ、知らないのか」
意外そうにルベルトが咲に言った。
いや、だから俺らまだ会って間もないからな?
と、思いはしたが口には出さない咲。
「グリーは冒険者全体の管理を任されている、ギルド本部を取り仕切る第37代ギルドマスターなんだ」
そういやなんか俺は偉いだとかなんとか言ってた気がする。これのことだったのか。
ギルドマスターは、ギルドに所属したことのある人物の名簿を書記受付以外で、唯一みることができる存在らしい。
それで、ものめずらしい人物が目に入っていたので覚えていた、ということだそうだ。
「そうだ、サキ、お前グリー戦ってみたらどうだ。」
………………?
「え、なにがどうなってそんな話になる?」
いきなりの話題のベクトル転換に困惑する咲。
それはそうだろう。勇者の話をしていたらいきなりの戦いがどうたらの話になるとは誰も予想しない。
「さっきグリーから聞いたけどな、お前ブラックグリズリーの首を一撃で切断したって?」
「そうらしいな」
俺、気絶してたし。
「らしい……?なんか言い方がおかしいが…………まあそれでだ、一応ブラックグリズリーってのはランクで言やB+。騎士団に入隊してる奴並みの戦闘力を5人で計画的にあたってやっとスムーズに勝てる魔物だ。」
それから、騎士団とやらの話を詳しく聞いてみて思ったが、騎士団というのは思ったほど大したことはないらしいと自分のなかで結論づける。
祖父母から戦闘の手解きを一週間に5回受けているだけの俺より弱いということだ。………………まあ練習は死ぬほどやらされたけどな。
それであのときは身体が勝手に反応したというだけだ。
「まぁ、かくいう俺も一撃で倒せるくらいの力はもってるけどな」
それで、力比べというわけか。
いやどういうわけかわからんが、多分この二人の頭のなかでは
『強いらしい』
↓
『俺も強い』
↓
『勝負だ』
という謎理論が出来上がっているのだろう。
脳筋にも程がある。
「というわけで、どうだ?」
と、ルベルトから催促がくる。
……仕方ない。せっかくだし、体を動かしとくか。
「……わかった。ただし、軽くだからな。」
次回、糞みたいな技で体術チート。