第6話 一方特定される二人(20161118改稿)
この小説の存在を忘れてた。
「えっと……」
「ん?もしかしてサキは獣人をみるのは初めてか?」
グリーが咲にそう話しかけた。そりゃそうだ。
あっちでこんな人種がいたら大騒ぎになる。
というかもうここは異世界で確定だな。
うん。
呆気なく確定してしまった。
「えーと……ルベルト、さん?」
「ルベルトでいいぞ、敬語もいらん」
「…………」
ルベルトの年齢は、外見で判断するならば多分グリーと同じくらいであろうことが推測できる。
この世界は敬語を目の敵にでもしているのだろうか。いや、それとも年功序列という考えがないだけかもしれない。
どちらにせよ、敬語は使わない方向でいったほうがいいだろう。
「わかった。俺はサキ・ユイヅキだ」
「なんか言いにくい名前だな。まぁ、いい。よろしくな、サキ」
今思ったがグリーとルベルトは似ているそれは雰囲気もそうだし、しゃべり方に関してもだ。種族から考えてみるに兄弟ではないのだろうが、親戚かなにかだろうか。
「……ルベルトは獣人?ってやつなのか?」
「おう、俺は狼人族だ。」
獣人とは言わずに狼人族と言ったということは他とは一緒くたにしてほしくないという意思表示だろうか。
おそらく狼族というのは誇り高い種族なのだろう。まあ、獣人を今のところルベルトしか見ていないのでわからないが。
「狼人族ってのはどういう種族なんだ?」
「あ?どういう意味だ?」
「その…種族の特長的ななにかは無いのか?」
もしこれが狼人族の琴線にでも触れたらただではすまないだろうが、それはないだろうという確信があった。
さきほどグリーが「サキは獣人をみるのは初めてか」と言っていた。獣人を知らない人はおそらく少なくないのだろう。
「狼人族はな、嗅覚に優れていて、パワーもあるが魔法と魔導は使えないんだよ。」
ルベルトがそう答えた。
魔法………やはり魔法があるのか。
「生活魔法位ならはある程度まではつかえるが、まあ戦闘しているときは基本使わないかな。」
魔導とは魔法の上位互換らしい。
鈴木と一緒に図書室に行った時に、それ系統のライトノベルを読んでみたことがあるので間違いないだろう。
「サキは魔法は使えるのか?」
……おおう。グリーさんや。
使えるわけないだろ。
と、言いたいところだが………。
異世界転移もの本では、基本的に転移した瞬間に何らかの力を与えられていた。
自分にもそんな不思議能力が与えられているのかもしれない。
が、今はそんなことなど確認のしようがない。
「……いや、俺は使えないと思う」
「思う?ステータスプレート見れば一発でわかるだろ」
……なんだって?グリーさんや。今聞き捨てならんことを言いましたね?
「ステータスプレート?」
「ステータスプレートをしらないのか?」
「あぁ」
『ステータスプレート』
異世界もののラノベでは必ずといっていいほど登場する、自己の体力やスキル等の状態を確認できるなんか宙に浮く感じの半透明の板プレート。他人に見えたり見えなかったり、そこら辺は作品によって様々だ。
正直、本でこれが出てきたとき、咲は困惑した。だって…………
存在する意味が分からない。
ステータスプレートに記載されるものは色々ある。本の内容ごとに、記載される情報は多少の増減はあるにしろ、ほとんどかわらない。そして絶対に記載されておる情報というのがあり、それは物語を進めていく上で重要な情報になるのだ。HP然りMP然りLV然り………
そして咲は思った。あらゆる本をみて、物語の合間に挟んでくる主人公のステータスをみて、そして、こう考えた。
「なんだよLVって。意味わからん。」
先ずもってHP、MP共に何をもってして最低数を1としているのかが分からないし、なぜによくわからん板の上に自分の情報が記載されるのか、そもそもなぜ数値化されるのかっていう問題は結構前に考えて行き詰まったし、だいたい…………………
とまぁ、このように愚痴を話せばキリがないほどに考えて、そして考える度に意味がわからなくなっていく。
それがこのステータスプレートというものだ。
まあでもあった方が便利ではあるのだろう。
事実本を読んでいたときはステータスを基準に主人公の強さを比較していた。
要するに
考えたら負けなのだ。
「……おい、サキ、聞いてるか?」
「………すまん、もう一度言ってくれ」
「ステータスプレートの確認の仕方は念おまえの場合は念じる?感じだな」
「……わからん」
なんだその『あそこの門曲がってビューんと行ったら向かいにドカーンって立ってるから、そこだ』みたいな説明の仕方は。雑すぎるだろう。
「ははっ。グリーは説明が下手だからな。先ずもってそれについての記憶もあまり覚えてないと思う。ゆるしてやってくれ。」
「…………いや、まぁ説明下手なのはわかった」
代わりにルベルトが説明することになった。
「で、結構前に聞いた話によると、ステータスプレートの確認の仕方は、普通はギルドにいって魔道具で確認するしかないんだが、異世界人は言葉に出して「ステータス」っていうと確認できる、これはスキルのおかげらしい。無詠唱でもできるらしいが。」
なるほど。異世界ってのはそれだけで随分待遇がいいらしい。
……………ん?なんか…………あれ?
………!?
なぜルベルトは俺のことを異世界人だとわかるのか。
「俺は異世界人だと言った覚えはないが?」
少し警戒しながらルベルトに問う。
「いや、もうそれ言ってるようなもんだから。見慣れない服着てステータスの見方知らないとか異世界人以外ありえんからな?」
「そうそう。俺もお前ら初めて見たとき『あれ、こいつら迷い人じゃね?』って思ったしな。まあ事実迷い人なんだろ?」
まさか驚愕の事実。グリーも最初から気づいていたらしい。迷い人ってのは異世界人の総称か?
「いや、まあそれはおいおい話すが。異世界人はな、魔素を認知できるらしい。恐らく空気が違うことを本能的に察知しているんだろうよ」
警戒を少し緩めながら話を聞く。だいたい命を助けてくれた人に警戒するのも失礼な話だ。
「さっきの言ったスキル。異世界人はこちらの世界へと渡る際に、『鑑定』と『全自動翻訳』が付与される。これによってできるわけだが……」
「だが?」
話の続きを促す。
「もともとこっちの世界の住人は、そんなスキルを持ったやつはいなかった。そこで一人の研究者が研究したんだ。そのスキルはどのようにして発動するのか。」
「結果的に、空気中に含まれる魔力………つまり魔素なわけだが、それを体内の魔力と混ぜ合わせて自己の現状を世界と同期させているらしい。そして、こっちの世界の人間は魔素をほとんど認知できない体質なんだ。」
「へぇ」
「しかし、研究者は頑張って魔素を認知し、ステータスと唱えた。するとスキルが現れたらしい。まあ発現したのは『鑑定』の昇華前の『看破』だったらしいが」
なるほど。つまり俺は無詠唱でステータスを見れるが、こっちの住人は頑張らないと見れないわけだ。
「まあ、事実ステータスって、言うだけだ。やってみてくれ」
どうやら本当に説明のしようがないらしい。
と、ぐだぐだしててもしょうがないので、咲はとりあえずステータスを『言葉を出さず』に出すのを試した。というか、普通にステータスって言えばいいだけなのになぜ無詠唱に固執するのか。だって言うの面倒だし。格好いいし。
さて、さっそく、ためしてみよう。
心のなかで呟いてみるか
『ステータス』
目の前に板が現れた。
すげぇ。俺センスいいのかね。一発で現れたんだが。これはあれだな。ステータスについて前に色々考えてたお陰かな。
さすがステータスのプロ。
「でたぞ」
「は!?マジか!すげえな。無詠唱かよ。」
ルベルトは驚愕している
「で、どうだ。魔法は使えるのか」
そうだ。それを確認するのが目的だった。
ステータスを確認する。
「ん、とっ………」
Name:結月 咲 (ユイヅキ・サキ)『構築中』
Race :人間(正常)
LV :1
称号
異端なる者
Error
唯一神『━━━』の加護
「最適化中」
HP :10(+5)
MP :10(+5)
攻撃力:10(+5)
防御力:10(+5)
素早さ:10(+5)
精神力:10(+5)
ActiveSkill:時空魔導「F」
鑑定「S」
以下未解放━━━━━━
PassiveSkill:全自動翻訳「━」
以下未解放━━━━━━
Ability:錬成「口жщщ感шроif eg」
・通常錬成
・以下未解放━━━━━━
突っ込みたいことは山ほどあるが順に見ていこう。
まず称号からだ。
なんだこのあからさまにとばっちり受けた感じの称号。もしかしてこれ鈴木が勇者でおれはその召喚に巻き込まれたとかいうパターンかね。帰りてぇ…………
そして能力値の大幅な補正。これは称号部分についてる加護が関係しているのだろう。
ActiveSkillの時空魔導。なぜ魔法が使えないのに魔導がつかえるのか。やはり称号にあるようにイレギュラーだからなのだろうか。
まあ鑑定はお約束だな。
次はPassiveSkillの全自動翻訳。これか、言葉が通じる理由は。こいつのせいで不毛な脳内争いをしていたのか…………!!まあ言葉が通じなかったらと考えるとぞっとするから感謝しておこう。
最後にAbility。錬成は分かる。だがなんだその括弧かっこ内の文字列は。Skillを見ていればわかるように、多分熟練度であろうアルファベットが入るはずなのだがそれが表示されていない。文字化けか?
未解放は文字通り未解放なのだろう。
と、考えていたそのとき。
なぜだろうか。
あのときのことを突然思い出した。
今まで失っていた記憶。
そう、あの熊、グリズリーだったか。
俺の体が勝手に反応して一瞬にして首を撥ね飛ばしたのを覚えている。そして手に持っていたナイフ。あれがAbilityの錬成の効果の賜物なのだろう。もともとナイフなどもっていなかったはずだ。
そして直前に聴こえてきた謎の声。
どこか聞いたことのあるような━━━━━
「おい、サキ、大丈夫か?」
「しっかりしろ」
気がつくとグリーとルベルトから心配そうな顔で見られている自分がいた。
「あぁ、すまん。」
「まだ、体が疲れているんじゃないのか?」
「いや、本当に大丈夫だ」
「ならいいが」
どうやら予想以上に長い間黙考し続けていたらしい。
あの謎の声の正体は結局わからない。
なら、いま出きることをやっておく。
できないことをずっと試し続ける行為はただの時間の無駄だ。
とりあえず錬成について調べてみるか。
「で?結局魔法使えんのか?」
……そういやそんな話してたな…………。
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これはあとで書く小説と連動させてくつもりだからあんまり内容を矛盾させたくない。