第3話 落ちた先で第一村人発見(20161116改稿)
目が覚めると、知らない天井が目にはいった。
……………うん?………………?……………どこここ。…………病院か?
体中が隅々まで倦怠感に覆われている感じがする。ベッドの上で上半身を腹筋の力で起こす。
「ここは……」
すぐに病院ではないとわかるつくりだった。それはともかくとして。そこに広がるのは未知の風景。
見たことのない天井。見たことのない家具。みたことのない窓からの景色。…………
身じろぎすると、木でできている床が音をたてて軋む。
………床抜けたりしねぇだろうな。
恐る恐るベッドから出てたちあがる。
まずは状態の確認。特に身体には特には見当たらない。捻ったり、捻ったり、捻ったり、してみても特に痛みは感じなかった。
そんなことをしていると、部屋のドアがゆっくりと音を立てながら開く。
誰だ?と思いながらドアの方を注視する咲。
半分ほど開いたドアから舞の頭が覗く。
舞はたちあがっている咲を視認すると、
「結月君!」
右手に水の入ったバケツとタオルを携えて駆けてきた。
先程までいたベッドの枕元を視界の端で捉えると、濡れたタオルがおいてあるのがわかる。
おそらく寝ていたときに咲の頭にのせてあったものだろう。
そして咲にタオルをのせたのはおそらく………
鈴木がやってくれたのだろう。
「よかった……!」
心底ホッとしたのか、涙を流しながらしがみついてきた。
「本当に、本当に心配したんだよっ!?」
そういわれてもな……。まあ、謝っておくか。
「ん、すまん」
「お、奴やっこさん目覚ましたのか」
そして、舞が出てきた半開きのドアから出てきたのは………
「…………えーと…」
三十代後半位の男であった。
どこかであったことは……ないな、
うん、ないわ。
記憶を片っ端から探り、知り合いという線を除外した。
もしかして鈴木の親戚かなにかだろうか。
舞は咲の反応をみてあわてて涙を拭う。
「あっ、この人はね、イグニスさん。結月君を助けてくれた人だよっ」
「グリー・イグニスだ。よろしく」
「………どうも。」
グリーはそう言って、右手を咲の目の前に持っていく。それを見て、咲も右手を差し出した。
舞の様子から察するにどうやら親戚ではないらしい。
グリー・イグニス………
カタカナ名か。
こういう時って名前・苗字の順で自己紹介した方がいいんかね?
「咲 結月です。よろしくイグニスさん」
「よせやい、グリーでいい」
「よろしく、グリーさん」
「さん、はいらん」
「…………グリー、よろしく」
「おう、よろしく。サキって呼んでもいいか?」
「え?あ、あぁ、うん。」
若干引いている自分がいた。この人は人との距離を測れないそれ系統の人なのだろうか?
年下に名前で呼ばせるというのは、この人の中では普通なのだろうか。年上の名前を呼び捨てで呼ぶ身にもなって欲しいものだ。
改めて、イグニスさん。……………いや、グリーの顔を見てみるよく見ると、グリーは全体的に大きく顔立ちも彫りが濃い。
日本語を話しているが名前からして、在日だろうか?
ハーフかもしれない。
もしかすると、名前で呼ばせるというのはあっちの国の風習なのかもしれない。
「ところで………結局ここはどこなんだ?」
「あ、そうそう!聞いて!結月君!」
鼻息を荒くしながら咲に詰め寄る舞。
………近い。
「あっ、ご、ごめんねっ」
そして、舞は体を引く。
「じゃ、じゃあいうよ?」
何をそんなにためらっているのだろうか。
そして、その舞の口からとんでもない言葉が発せられる。
「私が、『ここは異世界だ』って言ったとしたら信じる?」
…………………やめてくれ、そういうの。
今から二時間ほど前のこと。
舞は、咲を一刻も早く助けるため、応急処置のできるという男性、グリー・イグニスの家にまでついていった。
家についた後のグリーは、まさに(応急処置の)プロと言っても差し支えないくらいの鮮やかな手捌きをみせた。
傷薬?的な物の調合や、包帯をまくスピード等々………
素人が見ても熟練者のそれであると分からせるものであった。
しかし、舞は、それでも不安である。
当然だろう。
先ほど知り合ったばかりの人である。
なので舞は、当然の質問をもう一度する。
すなわち
「その処置が終わったら病院に連れてってもらえませんか?」と。
しかし、グリーの口からはイエスでもノーでもなく、こんな言葉が聞こえてきた。
「さっきも言ってたけれども、病院ってのはなんなんだ?嬢ちゃん」
これは驚き。病院というものをグリーはしらなかったのである。
「え?いや、病院は病院ですよ!日本に住んでるなら知っているでしょう?」
舞は、困惑しながら聞き返す。
いくらなんでも「病院」を知らないというのはおかしいだろう。
からかっているのだろうか?
しかし、事態は深刻であった。
「?日本ってのはなんだ?嬢ちゃん」
絶句。
それ以外には形容のしがたい静寂がこの場を支配する。
ここからは質問攻めである。
「え!?じゃあここはどこなんです!?」
「どこって、ここの地名かい?」
「はい!」
「ここはサンウッドだ。
そしてこの山は、サンウッドの最も東に位置す「日本って本当に聞いたことないですか!?」る、ん?あぁ、いま初めて聞い「今は何年の何月何日ですか!?」おいおい!?嬢ちゃん、いったんおちつけ!」
話を纏めるとこうだ。
ここはサンウッドという地の東に位置するメーレ山。
グリー・イグニスは日本の生まれではない。
この世界での暦で神歴4004年6月27日だという。
一年は365日。閏年もある。そして、日本語が通じている。
しかし、今話しているこの言語は『帝国語』として浸透している言語であるらしい。日本語であるのに日本語でないという。
そして、舞は気づいてしまった。聞こえてくるのは日本語であるのにも関わらず、口の動きが日本語でないのだ……。
そんなことはあり得ない。
これはどういうことだろうか…………?
これまでのことをかんがみても、これは、科学とかで説明できる類いのものではなく、なにか、こう、『魔法』的な何かとしか………………
「………………んー、……」
「正確には『異世界』じゃなくて、『地球じゃない』ってことだね」
「『語り得ぬものについては沈黙しなくてはならない』」
「え?」
「いや、こっちの話。」
『結局説明出来ないことが多いので、ここは私達が知らないところなのではないか』という鈴木の持論。というか鈴木の口から考えた末に『異世界』という言葉が出たのには驚きだ。案外ラノベとか好きだったのかもしれない。
異世界説。
確かに突拍子もない話だ。
しかし、通学路からどこか違う場所に突然ワープするという現代日本ではあり得ない現象がすでに起こっている。
「異世界か………」
異世界ときくと、
中世のヨーロッパの町並みを思い浮かべるが、どうしてなのだろうか。
竜が飛んでいたり、魔法が当たり前に使えるというイメージもある。
ここが、本当に異世界ならば。
果たしてここもそうなのだろうか。
ん?そういえば…………
「そういえば、あの熊みたいなやつは?」
舞に向けて疑問を投げ掛けた。
「あぁ!そうそう!あれはサキがやったのか?」
グリーがいきなり声を荒げるので少しビックリした様子の舞。
咲はその言葉にクエスチョンマークを浮かべる。
「あれって?」
「あれだよ!あのブラックグリズリー!」
ますますもって訳がわからない、といった感じの表情を浮かべる咲。
「そう!あのとき結月君すごかったんだよ!こう……なんていうか………見てなかったからよくわかんないけど……多分ナイフで熊の首をスパーって!」
見ていないのにすごいとはこれいかに。
しかしどうやっても咲はそのときの事を思い出すことができなかった。
………俺があの熊を殺したのか?しかし、素手では倒せないと判断したはずだが………。俺はいったいどうやって………?
「まあ、話したくないなら無理に話そうとしなくてもいい。」
咲の様子を見て事情を察したのか、グリーはそれ以上の追求をしてこなかった。咲も聞かれても何も言えることがないので、勝手に判断してくれたのは好都合だった。
「とりあえず、まだ体が本調子じゃないならやすんどけ。一応怪我人なんだからな」
「あぁ……ありがとう」
そうしてグリーは部屋から去っていった。
「あっ、私グリーさんの手伝いしてくるから、もういくねっ」
と少し急ぎ気味にたちあがった。
「あぁ、わかった」
パタパタと音をたてながらドアを開けて廊下にでる舞。
「あ、」
と、舞はまだ言い残したことがあったのか。
顔だけを外に出して最後に咲にこういった。
「また様子見に来るからね」
「………おう」
その返事を聞いた舞は笑顔で顔を引っ込めて、去っていった。
部屋の窓を開けていたため、先ほど顔出していたときに開いていたドアが風によって勢いよく閉まる。
…………山奥ってのはいいもんだな。
心地よい風が咲の頬を撫でるようにふいていった。あぁ、本当にいい風だ。このまま窓を開けておくか。さて、眠くないし、何をして暇を潰しておこうか…。
耳を澄ますと窓からは声が聞こえてくる。
「グリーさぁーん」
「お、嬢ちゃんもう咲の看病はいいのかい」
「はいっ!またあとでみにいきますので!」
「嬢ちゃんもしかして咲にほの字なのかい」
「えっ!?いやっちがっ」
「冗談だって、あ、嬢ちゃんそこ押さえてくれ」
「もうグリーさんったらぁ!」
バタン
窓を閉めた。
「寝るか…………」
もう眠くはないし、体も結構調子はいいのでもう寝る必要はないのだが。
え?だったら『どうして寝るんだ』って?
いや、だって…………
このままあの二人の会話を聞き続けるってのは………
………さすがに恥ずかしいわ。
文字起こすのって結構時間かかるもんだな