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いつか結びて月に咲く  作者: クエルア
welcome to the another world
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第9話 屋根上で寝るとかなんなの

眠い。

 結局グリーの目が覚めたのは、あれから数時間たったころであった。そのときにはもう外はすっかり暗くなっていた。



「もう夜か、おい、飯出来てるかルベルト」

「んあ?お、起きたか。いんや、飯は今嬢ちゃんが作ってるからまだだな」

「ほう」


 因みに。

舞はさっきの会話のとおり、晩飯を作っており、グリーは先程まで気絶。ルベルトは台所の隣の居間のソファでさっきまで自主的に寝ていて(今は起きているが)、咲は本棚にある本を読んでいた。

 ついでにいうと舞はまだメイド服を着ている。よくよくみてみると、メイド服に似てはいるが、似ているだけで随分と造りやその他諸々が違うことが分かる。メイド服モドキと行った方が正しいかもしれない。

 そんなことより。


 き・が・え・ろ・よ!




「いやーそれにしてもあんなに上手く投げられるとは思わなんだ。いまでも少し頭がクラクラする」


 グリーは、咲に投げられたのがまだ効いているらしく、時折顔をしかめている。


「咲の力は薪割りの時に分かってたから即効で決着を着けようとおもったんだがなぁ。逆にやられるとはな」

「いや、それにしても咲の力は獣人の俺からしても尋常じゃないぞ?なんだあれ?」

「さあ?日頃の行いがいいせい……かな?」

「………はぁ?」


 ……日頃の行いがいいのであれば今ごろ家で飯食って風呂入ってるはずだけどな。『なんだ日頃の行いがいいせい』って。ルベルト。大丈夫だ。俺も意味わからん。


 咲が一人、心中で突っ込んでいると。


「お待たせしましたー」


 舞がテーブルに作り終えた料理を並べた。


 これまた結構作ったもんだな。

 汁物と、チャーハンと、サラダに、………………?

 この横においてある白黒の粉はいったい?


「結月君。それ『塩』だよ」


 舞が咲の耳にこそっとそんなことを言う。

 これが塩?塩コショウっぽいが。

 …………ああ。不純物を取り除く技術が確立できていないのか。

 咲はその塩をひとつまみ分舐めてみる。

 うん。塩だな。


「ほんとはドレッシング作りたかったけど時間がなくて…………」


 ……ドレッシングって作れるのか。



「おお!嬢ちゃん!これは旨いな!」

「ん!旨い!」


 おっさん二人がもう食い始めていた。

 んじゃ、俺も食べるかな。咲は手がならないくらいに軽く手を合わせ、


「いただきます」


 と言った。

 やはりこういう癖というものは抜けないらしく、食べる前にさっと素早く挨拶をしてしまう。

 手前にはフォークらしきものとスプーンがおいてあった。それを使ってまずはサラダ。キャベツとレタス以外には何が入ってるのか分からないが、野菜サラダなんてそんなもんだろう。

 塩を振って一口。

 野菜から食べると血糖値がどうたらこうたらという話を前にちらっと聞いたことがあった咲は、それ以来野菜からたべるようにしている。


 やっぱ長生きしたいしな。


 サラダを口に含み、咀嚼する。

 モシャムシャムシャ。

 野菜の味だ。当たり前だが。


 次は汁物いこう。

 さて、どうだろうか。お椀というよりはコップに近い形の食器を持って、口につけてスプーンでかきこんだ。


「ん」


 旨い。

 味噌ではなく塩味というのがまた新鮮で旨い。味噌味になれている舌に、塩があっさりとした絶妙な刺激を与えてくれる。


「旨いな」

「んふー。ありがとう」


 舞が顔を少し紅潮させながら、感想を言った咲にお礼を言う。


 今思ったがこれ、鈴木の手料理なんだよな。


 一人そんなことをしみじみと思う咲。


「ごちそうさま」


 気づけばすっかり全て平らげてしまっていた。やはり食後の挨拶も忘れていなかった。


「はい。お粗末様でした♪」


 改めてそんなことをいわれ、少し咲は気恥ずかしくなった。







「いやー嬢ちゃん。旨かった」


 グリーが満足そうに言った。一方ルベルトはというと、


「……………………んぐぁ」


 寝ている。

 元々夕飯ができるまでは寝ていたし、満腹になったことで睡魔がまた襲ってきたのだろう。


「さて、二人はもう寝るのか?」


 グリーがそんなことを咲と舞に向かって言った。


「ちなみに俺はやることがあるから寝はしないが、今から自室に籠る」

「んー、じゃあ本でも読んで眠くなったら寝るかな」

「わ、私は結月君と一緒に居ますっ」

「そうか、わかった。」


 そういってグリーはルベルトをかついで居間から廊下にでようとする。

 多分ルベルトを部屋に寝かすためだろう。


「あぁ、そうだ」


 すると、グリーが振り替えってこんなことを言った。


「ルベルトが来たから部屋が余ってなくてな。咲がいたあの部屋1つしか空いてねぇんだわ。ベッドもあれ1つしかねぇがあそこで二人で寝てくれ。」


 そんな爆弾発言を投下して、グリーは居間から出ていった。



「………は?」










 それから数時間後。

 咲は相変わらず本を読んでいるが、舞はその隣で寄っ掛かって寝ていた。

 最初は咲の本を一緒に見ていたのだが、いつのまにかうつらうつらとしていて、遂には寝てしまったのだ。

 時計をみる。指し示している時刻は23時。

 この世界が24時間制なのかは分からないが、そうであればもうとっくに真夜中ということになる。


「…………外、出てみるか」


 舞起こさないようにゆっくりと立ち上がる咲。灯りを消灯しようとしてスイッチを探すが見つからなかった。咲は舞をお姫様だっこして、ゆっくりと居間を出ていき、部屋のベッドに寝かせた。









 玄関を出てすぐ横に、屋根に上るための梯子があることは昼にわかっていたため、咲はそれを使って屋根に上る。


「……ふぅ」


 傾斜がかっている屋根に仰向けになって、一息ついた。見上げる空には光輝く大きな星が二つが煌めいていて、それらを際立たせるかのように無数の小さな光が輝いていた。



「やっぱ、異世界なんだな」



 地球で、夜に見える大きな星と言えば月以外無いことは誰でも分かる。大きな二つの星は、ここは地球ではないということをはっきりと証明していた。

 今日は疲れた。そんなことを思いながら咲は目を閉じる。

 色々あった。

 異世界に飛ばされ、熊に襲われ、闘いをした。どれもあっちでは体験しなかったことである。まあ、どれもこれも一日で体験したことなのだが。………。

濃すぎる一日であった。





「それにしても」


 意外だった。舞のことである。咲はもう少し、いや、かなり取り乱すのではないかと思っていた。しかし違った。取り乱しもせず、現実を見据え、堂々と振る舞っていた。

 うっすら寂しがる位はすると思っていたのだがそれすらもしない。強い(ひと)だ。

 そんなことを考えていると、梯子のある方からギシギシと音が聞こえる。

 誰か登って来るのだろう。


「…………結月君」


 登ってきたのは舞であった。

 しかも少し目の辺りが赤く腫れている。


「……どうした?」


 舞は梯子を上りきると、咲にダイブした。


「おい!?」


 いきなり咲の胸元に飛び込んだ舞。咲は胸の真ん中を中心に、濡れていくのを感じた。


 もしかして…………泣いてるのか?


「………………どうして」


 今にも消えそうな声で顔を胸に埋めながらボソボソとしゃべる。


「…………どうしていきなりいなくなったりしたの……………………」

「どうしてって言われてもなぁ…………鈴木が寝てるの起こしたくなかったし…………」

「………………そういう時は起こしてよ」


 話の論点が見えてこない。要するに起こさなかったことを怒っているのか?


「どうしたんだ」

「……………………」


 そして気づいた。


「…………一人は……」


 俺は


「…………嫌だよ……」


 何か


「…………寂しいよ…」


 とんでもない勘違いをしていたのではないか。


「…………一人にしないで…………怖いよ……」




 鈴木がこっちに来てからあんなに笑顔で堂々と行動していたのは、彼女が強いからなんて理由ではなく。

もっと単純に、気高く振る舞わなければ、今にも心が折れそうだったからなのではないか?


 知らないところに来て早々、獣に襲われ、撃退したと思ったら唯一の知人は倒れ、頼れるものはない。

 そんな状況を前に鈴木はもう限界だったのだろう。

 仮初めの『強い自分』をつくり、演じることで乗り越えていたのではないか。


「…………すまん」

「……………………」


 気づいてやれなかったことを少しだけ悔やむ。そして、今後はもう鈴木となるべく離れないようにしようと決意した。


「………………くぅ……」




 言いたいことを言ったからだろうか。咲の謝罪の言葉を聞いたからだろうか。舞はそのまま眠ってしまった。安心したのだろう。

 ベッドに戻って寝かせようと思ったが起こすのは気が引けた。しかし、咲は先程もう離れないことを決意した。しかたなく、胸元で眠っている舞の(ほお)を撫でた。


「………………んぅ」


 身動ぎしたときに舞の顔が見える。その表情は安心しているようで、自然な笑顔が可愛らしかった。

 時折吹く風が肌を撫でる。

 …………このくらいなら風邪は引かないかな。




 その夜は、そのまま屋根の上で二人一緒に眠った。








クラスで防大受かってたの自分だけだったの草しか生えない

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