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ズットモ  作者: 由希
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第四話

「……は?」


 思わず、そんな間抜けな声が口から出ていた。今、この子、何て言った?

 今日この島に来た人を殺す? 今日この島に来たっていったら、私と赤澤達の事じゃないの?


「私ね、頼まれたの。赤澤さんって人に、娘さんの行動が目に余るから殺して欲しいって。その子、今までに色んな人に酷い事してきたんだって。悪い子だよね」


 動揺する私には気付かないように、少女がそう続ける。言っている事はこんなにも物騒なのに、眉根を寄せて唇を尖らすその姿は不自然なまでに愛らしい。


「でも、いくら悪い子って言っても一人だけ殺すのは可哀想でしょ? だから、仲の良いお友達も一緒に殺す事にしたんだ」


 そう言って、また笑顔を浮かべる少女。あくまでも愛らしい仕草が、逆にうすら寒かった。

 何なの、この子。言ってる事がよく理解出来ない。全く普通の神経の奴が喋る内容じゃない。


「見て、陽子ちゃん、これ」


 少女が、スカートの下から何かを取り出す。それを見た瞬間、私はひっ、とひきつった声を上げた。

 それは、月明かりを鈍く反射する新品の出刃包丁だった。


「これね、今日の為に新調したんだよ。綺麗でしょ?」


 くるくると、自慢げに包丁の表裏を見せながら笑う少女。やばい。こいつ、本気で、私達を殺す気……待って? 私達?

 この子は、赤澤とその友人を殺しに来たと言った。けど私は? 赤澤の友人でも何でもないじゃないか。

 寧ろ、友人なんて立場とは程遠い。いじめられている立場の私は。


「……陽子ちゃん?」


 ふと気付くと、少女が心配そうな顔で私を見つめていた。どうやら、考えが顔に出てしまっていたようだ。


「……ねぇ、あなたが殺しに来たのは赤澤香苗とその友達……だよね?」

「うん、そうだよ」


 気を取り直し、念の為にそう確認すると少女は笑顔で頷いた。なら……私が殺される理由なんて、どこにもありはしない。

 この子は確かに頭がおかしい。けど、もしかしたら使えるかもしれない!


「……私は、赤澤達に無理矢理この島に連れて来られたの」


 出来るだけ神妙な顔を作り、私は少女に言う。少女はきょとんとした顔で、私の話に耳を傾ける。


「毎日、毎日いじめられて。ずっと、辛かった。今日だってこのバッグを森に捨てられて、体を痛め付けられて、一人だけ別荘から閉め出されて……」


 言葉にするうち、沸々と怒りの感情が湧いてくる。あまりにも理不尽な仕打ち。死んで欲しいと、何回願ったか解らない。

 そうだ。これはチャンスだ。信じてもいなかった神様がくれた、最高のチャンス!

 こうなったら、あいつらにはここで確実に死んで貰う。その為に……。


「協力する、あなたに。あなたがあいつらを殺す手伝いをしてあげる。あんな奴ら、生かしておけない!」

「……陽子ちゃん」


 いつの間にか演技ではなく、本気でそう叫んでいた私を少女が真っ直ぐに見つめる。その目には、大粒の涙が浮かんでいた。


「陽子ちゃん、辛かったんだね。いっぱいいっぱい、酷い目に遭って来たんだね……」


 軽く鼻を啜りそう言う少女は本当に、私の境遇を悲しんでいるようだった。それを見て、私は複雑な思いに囚われる。

 初めて私に救いの手を差し伸べてくれようとしているのが、世間に溢れるまともな誰かではなく、この頭のおかしい殺人鬼。何という皮肉だろう。世間では疎外される存在が、同じように疎外されいじめられている私には救世主なのだ。


「決めたよ。陽子ちゃんの為にも、私、必ずいじめっ子達を殺すよ!」

「ありがとう……白石さん」

「まどかでいいよ。だって私達、もう友達でしょ?」

「……友達……」


 少女――まどかの涙を拭いながらの言葉に私は一瞬、嫌な気分になる。だって、赤澤達を殺してくれるのは嬉しいけど、私は別に殺人鬼と友達になりたい訳じゃない。

 けど、友達になるのを断ればまどかは気分を害し、やっぱり私も殺すと言い出すかもしれない。仕方ない。ここは、嘘でも話を合わせておこう。


「うん……そうだね、まどか」

「ふふ、私、頑張るからね!」


 出来るだけ友好的に見えるよう笑みを作る私に、まどかが笑顔を返す。それを見た時私は、ほんの少し、本当にほんの少しだけ、気持ちが安らぐのを感じた。

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