62話 碇の想いと二人の絆
固まってしまっていた俺ははっとしてすぐに碇に質問した。
『失敗したら二度と解けないってどういうことだ?』
『それは色乃も死ぬからだ』
『どうして佐久野も死ぬんだよ?』
『呪いを解く為の手段を説明する』
すると碇はその場に座り俺にも座るように指示した。そして向かい合って座った状態で碇は話し始めた。
『まず俺達は死んでしまっている。だが正確に言い直すと君はまだ死んでいないんだ』
どういう意味かはわからず質問したかったが俺は黙って碇の話を聞き続けることにした。
『今君の身体は手術によって治療されているところだ。しかし普通の場合だとまず助からない。でも今の君には俺がいる。俺の力を使って君を蘇生させる。ただ必ず成功するかはやったことがないからわからない。後は君の生命力次第だ』
『大丈夫だ!俺は1回復活しているんだ!』
俺は碇にそう言ってガッツポーズを見せた。碇は少し笑顔になった。しかしすぐにまた冷静な顔になると
『ただ通常死んでいる君を無理矢理蘇生させる訳だから俺に何もないはずがない』
俺はすぐにその意味に気付いて深刻な顔をして碇を見た。碇は無言で頷いた。
『その後俺がいつまでこの場にとどまっておけるかはわからない』
俺は碇を信じることにして無言で頷き返すと碇は手に力を入れ直した。
『ここまで上手くいったとして本題だ。君が意識を取り戻した後完全に回復するまで耐えてくれ』
俺はその内容がわからなかったので碇に尋ねた。
『何を耐えるんだ?』
『呪いからの不幸からだ。恐らく君を蘇生させた俺に君達を守る力はないだろう。そして色乃の呪いを解く時の為に力を残さなければならない』
俺は唾を飲み込んだ。今まで碇が押さえていてあの状態まで来ている呪いを元気な状態ならまだしも重傷のまま耐え続けることが出来るのだろうか?俺は少し悩んだが、いや、やるしかないんだ。そう思った。
『なんとかしてみせるさ!』
碇はまた少し笑顔を見せた。そしてそのまま大きく頷いた。
『回復した後はすぐに行動してくれ!俺がいつまでもつかわからない』
『わかった。それで呪いを解く方法っていうのは?』
俺がそう言うと碇は大きく深呼吸した後俺を見つめ直した。
『色乃と二人一緒に死んでくれ』
しばらく俺は碇の言っている意味が理解出来ずに固まっていた。そして我に返ると碇を怒鳴った。
『どうして二人で死ななきゃいけないんだよ!ふざけるなよ!!死んだら呪いが解けます?そんなの解く方法じゃねーよ!!』
碇は興奮する俺をなだめるように押さえつけた。
『話を最後まで聞け。死ぬと言ってもそのまま死ぬ訳じゃない。色乃と一緒に今回みたいに生死を彷徨ってほしいんだ』
『どういうことだよ?』
『色乃に取り憑いている呪いは色乃が生きている状態だと剥がせないんだ。それくらい強力だったということ。俺が死んで剥がそうとしたが駄目だった。だから色乃が生死を彷徨ってこの死後の世界にいるときに俺が呪いを一緒に連れて行く』
その時俺は前に碇から聞いた言葉を思い出した。
『俺は死ぬしかなかった』
碇は間違いなくそう言っていた。つまりその為に死んだということなのか?俺は碇を見て尋ねた。
『もしかしてお前その為に』
そう言いかけた時碇は俺を静止させた。
『それ以上は聞かないでくれ』
『でもそれじゃあ佐久野が・・・・・・』
俺はそれ以上は言わなかった。今まで冷静だった碇が泣きそうな顔をして頷いたからだ。
『それも・・・わかっている。でもこうして死んでみてわかった。やはり色乃の呪いを解くにはこうして誰かが死ぬしかないんだ。いいんだこれで。色乃は俺に目的をくれた。それだけで十分だ。それに色乃にはもう君がいる。だから俺は安心して逝けるよ』
そう言って碇の目からは堪えていた涙が溢れ出していた。それを見た俺は碇と一緒に泣いたのであった。
『佐久野は絶対俺が守る!』
『ああ!頼んだよ!』
この時俺と碇の間には親友とも呼べる絆が生まれた気がした。




