57話 新瀬の夢
羽野君がそう言って私達の方を見た。新瀬君は不思議そうな顔をして羽野君を見ていた。いったい何の話があるというのだろうか。
羽野君は一呼吸すると話し始めた。
『実はあの病気の時に新瀬の夢にも碇が出てきているんだ』
私は驚いた。色君が新瀬君の夢に!?どうして?
『俺も新瀬から聞いた話だから実際に体験した訳ではない。それに佐久野さんに話していいのかもわからなかったからずっと黙ってたんだ。ごめん』
羽野君はそう言うと私に頭を下げた。
『どういうことなの?色君が新瀬君の夢に出てきたって』
『俺も全部新瀬に聞いたことしかわからない。とにかく先に聞いてほしい。どこかわからない世界で全てを憎んで死んだ子供がいたんだ。それが佐久野さんの呪いの正体だそうだ』
私は意味がわからなかった。今まで何もわからなかったこと次々と羽野君の口から出てくる。どうしてそんなことを彼らは知っているんだろうか。
『ちょっと待って!どうしてそんなことわかるの!?』
羽野君は少し下を向いた。そして再び顔を上げると私と目を合わさず話を続けたのだ。
『全て夢の中に出てきた碇から聞いたそうだ』
色君から聞いた?どうして色君がそんなこと知ってるの?そうだ夢の中だから想像の話かもしれない。私はそう思った。
『それにどうして新瀬君の夢に出てきたのが色君ってわかるの?ただの夢かもしれないじゃない。だって色君が自分で名乗ったからとしても・・・』
私はそう言った時にあることを思い出したのだ。私は羽野君を見た。すると羽野君は一言ごめんと言った。
『私に色君の名前を聞いたのは色君が本物かどうか確認するため・・・・・・』
それを聞くと羽野君はもう一度ごめんと言った。つまり二人はあの段階でもう呪いについて知っていたのだ。私は急に怒りがこみ上げてきた。
『どうして黙ってたのよ!なんで教えてくれなかったの!?そうしたら新瀬君がこんな目に』
『遭わなくてすんだと思う?』
羽野君は私の言葉を遮って尋ねた。そんなのわかるはずがない。そういった顔をしていると羽野君が話し続けた。
『話にはまだ続きがあるんだ。新瀬の夢でも呪いを解く方法はわからなかったんだ。最後何かに邪魔をされたそうだ。そこで新瀬は目を覚ました。それともう一つ。俺達は碇に守られているそうだ。そうでなければもう死んでいるそうだ。だから』
羽野君がそう言った時に私は全てを悟った。
『色君が守ってくれると信じて遊びに行こうと言ったのね・・・・・・』
羽野君は無言のまま頷いた。色君が守ってくれている。見えないけど色君が近くにいるんだと思うと少し安心した。それと同時に私はある疑問を抱いた。
『羽野君。新瀬君が聞いてたらでいいんだけど・・・・・・色君はどうして事故に遭ったの?』
すると羽野君は私から顔を背けた。まるで話してはいけない何かを知っているかの態度である。
『お願い。知っているなら教えて』
羽野君は私の方へ顔を戻した。
『たぶん新瀬の記憶があったら絶対に話すなって言うと思う』
羽野君はそう言った。やっぱり知っているんだ。私が聞くと良くないことなのは間違いないと思ったが、逃げるわけないはいかない。
『覚悟は出来てるわ。教えて』
私の意志に負けたかのような表情を羽野君がした。
『佐久野さんを助ける為に碇は死ぬしかなかったそうだ』
『なんで!?』
『ごめん。それしかわからない。ただ呪いを解くには協力者がいる。それが新瀬なんだ』
協力者が新瀬君?どういうことか私にはまだわからなかったが、私はそれより色君に抱きしめられた時のことを思い出した。
あの時色君は全てを悟ったに違いない。だからあの日何も言わずに帰ったのだ。
それを思い出すと私は目から涙が溢れてきたのであった。




