45話 失ったもの
新瀬君は集中治療室から出てきた。その光景を見て新瀬君のお母さんが涙を流した。やっぱり今まで我慢していたのだろう。
すると先生が私達のところへやってきた。
『新瀬君の関係者の方ですか?』
『はい。私が母です』
新瀬君のお母さんが答えた。すると先生は深刻な顔をした。
『大事なお話があります。別室へよろしいですか?他の方もご一緒にどうぞ』
そう言うと私達は別室へ案内された。いったいどうしたのだろうと思いながら私は羽野君の顔を見た。羽野君もよくわからない。そう言った顔をしていた。
部屋に入ると先生が椅子に座り、私達も用意された椅子に座った。
『典貴君の容態なのですが・・・・・・』
先生がそう言い始めると私は息を呑んだ。一瞬の静寂が響いた。
『命に別状はありません。ここに運ばれてくる前の処置が良かったのでしょう』
そうだ。事故に遭った時新瀬君を助けてくれた人がいた。確か瑠子さんと草人さん。あの二人はどうしたんだろう?私は気になった。すると羽野君の顔が少し曇った
『そのお二人がいなければ典貴君は助かっていなかったでしょう。ただ・・・御礼が言えないのが残念ですが・・・・・・』
先生は悲しそうな声をしていた。どういう意味だろう?私にはわからなかった。
『それと典貴君はいつ意識が戻るかわからない状態です。それに頭を強く打っているので、もしかしたら後遺症が残るかもしれません。もしくはこのまま意識が戻らない可能性もある。それだけは覚悟しておいて下さい』
意識が戻らないかもしれない。植物状態と言われるものだ。それに仮に意識が戻っても後遺症が残るかもしれない。そうだ、生きていても元気な状態に戻れるかはわからないのだ。私はショックを受けた。
『何にせよ典貴君の意識が戻らない限りはこれ以上何も出来ません。あとは彼の生命力を信じるしかありません。私の話は以上です』
先生が話している間誰も声を出さなかった。新瀬君のお母さんも涙を堪えて聞いていた。
部屋から出ると羽野君が私の前に立った。少し悩んだ顔をしてから私の目を見た。
『佐久野さん。話があるんだ。たぶんさっきの話でわからないところがあったと思う』
そう言うと私と羽野君は二人で私の病室へ戻った。お母さん達は一緒に廊下で話をしていた。
部屋に入って椅子に座ると羽野君は話し始めた。
『新瀬を助けてくれた二人なんだけど・・・・・・』
そう、瑠子さんと草人さんだ。私も二人にちゃんと御礼を言いたいのに先生が言えないと言っていた。どういう意味かわからなかったが羽野君の表情を見て私は状況を察した。
『もしかしてあの二人・・・!?』
私がそう言うと羽野君は首を横に振った。
『たぶん佐久野さんが思っていることとは違う・・・・・・あの二人は突然消えてしまったんだよ』
状況が理解出来なかった。消えたとはどういう意味なんだろうか。私が気を失った後何が起こったんだろう。
『佐久野さんが気を失った後、瑠子さんが佐久野さんを抱えて道路の端まで運んでくれたんだ。そして二人の家族に連絡をした。その後すぐに救急車が来て新瀬と佐久野さんを乗せたんだよ。俺は二人に御礼を言って一緒に救急車へ乗った』
ここまででは何も消える要素が見つからなかった。いったいいつ消えたのだろう?でも私は何も聞かずに羽野君の話を聞き続けた。
『草人さんは新瀬の出血を抑えていたから一緒に救急車に乗った方がいいと思って呼んだんだ。するとそこにはもう誰もいなくなっていて救急隊員の人に聞いたら最初から誰もいなかったと言った。消えたんだよ、二人とも突然』
『えっ、どういうこと!?確かに二人はいたよ?私だって見たもん!』
意味がわからなかった。羽野君もわからないといった顔をしている。
『俺だってわからないんだ!間違いなくあの二人はいたんだ!でも突然消えた。俺だって信じられないよ。救急隊員の人に言っても信じてもらえなかったんだ。だから新瀬を診てくれた先生に言ったんだ。そうしたら先生は信じてくれた。何も処置をしていなかったらもっと酷いことになっていたって。それに俺に血が付いていないから俺が処置していないことは先生はわかった。でも俺ちゃんと御礼は言ったから』
そう言って羽野君との話は終わった。それからも結局あの二人のことは一切わからなかった。
そしてその後1週間経ったが新瀬君の意識は戻らない。




