43話 絶望
電話の音はすぐに鳴り止んだ。たぶんお母さんが出たのであろう。しかしすぐにお母さんが私の部屋へやってきたのだ。
『色乃。学校の先生から電話よ』
そう言ってお母さんは電話の子機を私に渡すと部屋から出て行った。
私は保留中の電話に出た。
『もしもし。佐久野です』
『佐久野さん。落ち着いて聞くんだよ』
先生の声はとても暗かった。私はどうしたんだろうと思いながら聞いていた。
『実は碇君が・・・・・・・・・・・・交通事故で亡くなった』
最初先生の言っていることが理解出来なかった。そして色君が死んだことを理解した瞬間私は頭の中が真っ白になった。
『・・・・・・本来は・・・いうこと・・・・・・から・・・・・・徒へ直接・・・てはいけな・・・・・・けど君の・・・合は特・・・・・・』
その後先生が何を言っていたが私には何も聞こえなかった。ほんの数時間前私のことを抱きしめてくれて好きだと言ってくれた人がもうこの世にはいない。嘘だ。これは絶対何かの間違いだ。
『佐久野さん?聞こえてる?』
先生の声で私は我に返った。
『先生。いろく、碇君が亡くなったって冗談ですよね・・・・・・?』
『・・・・・・先生も出来れば冗談だと言いたいが・・・残念ながら本当だ』
もちろん冗談じゃないことはわかっていたけど信じたくなかった。あの笑顔はもう見ることが出来ない。絶望的な気持ちになった。
でも何故か涙が出なかったのだ。今日はいっぱい泣きすぎたから?いや、あまりの状況に頭がついてこなかったのかもしれない。
それから私はお母さんと一緒に色君が運ばれた病院へと向かった。色君が死んだという話をお母さんにしたら信じられないといった顔をしたが、すぐに私を抱きしめた。お母さんは泣いていたが私はここでも涙が出なかった。いったいどうしたんだろうか?
病院に着いて受付に聞くと霊安室というところへ案内された。真っ暗な廊下の先にその部屋はあった。部屋の前では恐らく色君のご両親が座って涙を流していた。すぐ横には担任の先生が立っていた。
先生が私の姿に気付くと私に手招きをした。そして先生は色君のご両親に私達を紹介すると私達に頭を下げた。それを返すように私達も頭を下げた。
『佐久野さん。この中に碇君がいる』
先生がそういうと部屋の方へ顔を向けた。そして私達は色君のご両親と一緒に部屋の中に入った。
中に入ると真っ暗でろうそくの火が点いているところだけ明るくなっていた。その奥にベッドがあり顔に白い布を掛けられた状態で色君が寝ていた。
『色。佐久野さんが会いにきてくれたよ』
色君のお母さんがそう言って色君に被せられた布をとった。
そこにはとても死んでいるとは思えないほど綺麗な顔をして寝ている色君がいた。
『色君・・・』
私は呼びかけた。しかし返事はなかった。
『ねえ色君、返事してよ・・・』
私はここで涙が溢れ出した。今まで信じられなかった出来事が現実に起こったということを理解したからである。
『色君・・・』
私がそう言い続けていると色君のお母さんもまた泣き出してしまった。そして色君のお父さんがお母さんを連れて部屋から出て行った。それと一緒に私のお母さんも一緒に部屋から出て行った。私は色君と二人きりになった。
『色君、色君・・・・・・』
それから何度も呼びかけたがやっぱり返事がなかった。
そして私の記憶は今に戻された。新瀬君が事故にあった今だ。
『新瀬君!』
私は目を覚ました。




