30話 発見と別れ
俺は焦った。どこではぐれたんだ!?全く見当がつかない。
『とにかく探そう!』
羽野がそう言った。俺は頷いて羽野と一緒に歩き出した。
『佐久野さんどこではぐれたんだろう?』
俺はとりあえず羽野に尋ねてみた。
『全然わからない。俺も気付いたらいなかったんだ』
人が多くなり出したのは遊園地を出てからだ。もしかしたら出口付近にまだいるかもしれない。
『一度遊園地に戻ろう。もしかしたらそこで待っているかもしれない』
『わかった。ここで探しても人が多すぎてわからないから順番に探そう』
俺達は互いに頷くと人の流れを逆向きに歩き出した。
すれ違う人が俺達を睨むように見てくる。
『思った以上に俺達迷惑みたいだな』
羽野がそう言った。帰り道の流れを逆に歩いている人間がいたら当然邪魔だろう。
『気にするな。とにかく急ごう』
俺は羽野にそう言って歩き続けた。
遊園地の出口に着いて辺りを見回すが佐久野の姿は見えなかった。
『佐久野さーん!』
俺と羽野は佐久野を呼んだが返事はなかった。
『ここにはいないのか』
残念そうな顔をして羽野がそう言った。
『仕方ない。駅の方へ歩きながら探そう』
俺達は人混みの中佐久野を探しながら歩き出した。
『これも呪いの不幸なんだろうか?』
羽野が突然そう言い出した。確かに俺達にとっては不幸なのかもしれないけど、本来佐久野と関わらない方が不幸が減るはずである。いなくなることの方が不幸なのはおかしいと思った。しかしそれは定かではないので、たぶんそうだろうと俺は答えた。
羽野が一瞬不思議そうな顔をしたように見えた。
しばらく佐久野を探しながら歩き続けたが佐久野は見つからなかった。見えるのは俺達を迷惑そうに見る人達だけだった。
『どこに行ったんだよ!』
羽野は少し怒りを含めてそう言った。確かにこれだけ探しても見つからないと機嫌が悪くなっても仕方ないと思った。
『それにしても人の数が全然減らないな』
『どんだけいるんだよ!』
羽野のやはり苛立っていた。普段ならこんなことになるようなやつじゃないのにどうしたんだ?と俺は思った。これも呪いのせいか?
とにかく今のまま佐久野を探していたら羽野ともはぐれてしまいそうな気がしたので
『いったん人混みから離れようか』
俺は羽野に提案した。羽野は無言で頷くと人のいない方へ歩いていった。俺は見失わないように後に続いた。
人混みから外れると
『どうしたんだよ?らしくないじゃないか』
俺が羽野にそう言うと羽野は手で顔を抑えながら
『すまん。なんだかおかしくなってたみたいだ』
そう言って手を顔からどけるといつもの羽野の顔に戻っていた。
『佐久野さん、もしかしたらもう駅に着いているかもしれない』
羽野がそう言った。すでに1時間近く佐久野を探している。駅に着いていてもおかしくないと思ったが、佐久野もまた俺達を探している可能性はある。しかしこれだけ探しても見つからないのであれば駅で待ってるいるかもしれない。そう思った。
『行こう!』
『早く見つけて帰ろうぜ』
俺達は駅に向けて歩き出した。
駅へと歩き出したはいいが人の数が多すぎて思った以上に進まない。
『はぐれるなよ』
俺は羽野にそう言った。ここで羽野ともはぐれてしまったら大変だ。
『大丈夫だ。しっかり前見て歩け』
その言葉を聞いて安心した。いつもの羽野だと思った。
駅への道は道路を挟んで2つになっているが両方共人がいっぱいだった。
しばらく歩いていると道路の反対側に見覚えのあるシルエットが見えた。
『羽野!あれ』
俺は羽野を呼びながらそのシルエットを指差した。
『佐久野さんじゃないか。間違いない』
俺と羽野は気持ちが高ぶっていた。やっと佐久野を見つけたのだ。
『佐久野さん!』
俺と羽野は佐久野に聞こえるように大きな声で佐久野を呼んだ。しかし他の人の声と車の騒音によってその声は届かなかった。
『佐久野さん!』
もう一度声を張り上げて呼んだ。すると今度はその声が届いたのか佐久野はこちらに振り向いたのだ。その顔は間違いなく佐久野だった。俺は佐久野と目が合った。喜んでいるように見えた。
しかし、それと同時に俺の視界にはあるものが飛び込んできた。
小さな子供が人混みから道路に押し出され倒れてしまったのだ。しかも俺以外に誰も気付いている様子はなかった。羽野からも俺が死角になって見えていなかった。
そこへ車が近付いてきたのだ。まずい!このままだと間違いなく引かれる。俺は直感でそう思った。そして無意識に体が動いていた。
俺は道路へ飛び出した。近くで女性の悲鳴が聞こえた。子供は倒れたまま動かない。間に合え!そう思い俺走った。
そして俺は子供を歩道側へ押し出した。子供は道路脇にぶつかった。それを見た瞬間俺の視界は突然振動とともに飛んだ。
俺は車に引かれたのだ。身体中から痛みが起こってきた。全身が痛い。悲鳴がと子供の泣き声が聞こえてくる。あの子は助かったのか?しかしどんどん声が遠くなってきた。下を見ると地面が赤く染まっていた。これは俺の血か?俺はこのまま死ぬんだろうか?そう思ったその時
『新瀬君!新瀬君!』
誰かの声が聞こえてきた。身体が動かないので俺はなんとか目線だけ声のする方へ向けた。そこには佐久野がいた。
『佐・・・・・・久野さ・・・ん。よかっ・・・・・・た見・・・つかって』
『喋らないで』
佐久野の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
『誰か救急車呼んだください!お願いします!早く!』
遠くで羽野の声も聞こえた。
俺は目を閉じた。
『新瀬君!いやっ、死なないで!新瀬君!』
佐久野が俺のことを何度も呼んでいる。しかしその声は俺の意識とともにどんどん小さくなってきた。
ごめん、佐久野。約束守れなくて・・・羽野、後は頼んだ。
そう思い薄れていく意識の中で俺は目を開けてもう一度佐久野の顔を見た。泣いている佐久野の顔がそこにはあった。
それを最後に俺の意識はそこで途絶えた。




