29話 加護と呪い
俺達3人は遊園地にやってきた。
『久しぶりに来たな!』
羽野がそう言った。遊園地に最後に行ったのは小学6年生の時だ。学校の遠足で行ったのを覚えている。確かあの時は羽野が・・・俺がそう思った時
『あの時は俺がはしゃぎすぎたんだよな。で、集合場所がわからなくなって集合時間に間に合わなくなってさ。結局先生に怒られたんだよな』
羽野は笑って話した。俺が思っていたことと同じだった。だから俺は少し笑った。
佐久野を見るとその話を笑って聞いていた。その光景を見て何だか俺は少し悔しい気持ちになった。
『そういえば佐久野さんは最後に遊園地に来たのはいつなの?』
羽野は話の流れで佐久野に質問した。佐久野は少し戸惑った顔をした。
『・・・小さい頃に家族で来たのが最後かな。学校の行事では私不参加だったから』
佐久野は周りを不幸にするからという理由でそういった行事には参加していなかったのだ。
『ごめん・・・』
羽野はそれを聞いてすぐに謝った。
『大丈夫。羽野君は悪くないから。気にしないで』
佐久野は笑顔でそう言ったが羽野の性格上それは多分無理だと俺は思った。
しばらく気まずい雰囲気が漂っていた。羽野がずっと悩んだ顔をしていたのだ。
『もういいだろ。佐久野さんは大丈夫って言ってるんだから』
俺は佐久野に聞こえないように小声で羽野に話しかけた。
『わかってはいるんだけど、どうしても・・・』
『このままの雰囲気の方が嫌だろ?』
俺がそう言うと羽野は一瞬立ち止まった。俺と佐久野は少し驚いて一緒に羽野の方へ目を向けた。
『そうだな。ごめん!』
羽野が突然佐久野に謝った。
『どうしたの?突然謝って』
佐久野は気を使ってなのかどうかわからないけど何もわからない感じだった。
『なんにもない。行こう!』
羽野はそう言うと先に歩いていった。これも羽野らしいと俺は思った。そして俺と佐久野は羽野の後を追った。しかしその瞬間いきなり突風が吹いた。そして羽野が被っていた帽子を飛ばしたのだ。
『あっ』
だがそれは偶然俺の体に当たって落ちた。俺はそれを拾い上げると走って戻ってきた羽野に手渡した。
『すまん、ありがとう。それにしてもなんでこんなところであんな突風が吹いたんだろう?』
『多分呪いのせいだと思う。そして俺の体に当たったのは碇のおかげだと思う。』
俺は小声で答えた。もちろん佐久野に聞こえないようにする為だ。
それから俺達は呪いのことはあまり考えないようにしてアトラクションを楽しんだ。
もし何が起こってもこの時間だけは大切にしないといけない。俺はそう思った。
そして3人で歩いていると俺の肩が反対から歩いてきていた人にぶつかった。
『いってーな!』
相手が声を出した。よく見ると金髪で耳にはピアスが沢山付いているかなり強面の男だった。男は俺を鋭い目で睨みつけた。
『すいません』
俺はすぐに謝った。よくあるシチュエーションだと慰謝料とか請求されるんだろうなとか思っていた。そうなると大変だ。そうならないように心の中で祈った。
男はしばらく俺を睨みつけていたが、顔が少し柔んだ。
『まあいいわ。今日は俺気分がいいんだ』
俺の祈りが通じたのか。そう思った。
『だからそのソフトクリームに免じて許してやる』
ソフトクリーム?そう言われて俺は逆の手に持っていたソフトクリームを見た。するとそこにはクリームはなくカップだけが残されていた。下を見ると悲しそうにクリームが地面を伸びていた。
『気をつけろよ』
男はそう言うとどこかへ歩いていった。
男が見えなくなると俺は息を吐いた。すると突然佐久野が俺に飛びついてきたのだ。
『何もなくてよかったね。どうしようと思ったけど体が固まって何も出来なかった。ごめんなさい』
佐久野の顔には少し涙が滲んでいた。
『何も出来なくて悪い・・・』
羽野も申し訳なさそうな顔で俺にそう言った。
『仕方ないよ。逆の立場だったら俺だって何も出来なかったと思う』
俺は笑顔で羽野に返した。それに呪いがある中で何もなかったんだ。俺はむしろラッキーだと思った。これも碇のおかげなんだろうか?しかし俺はそう思うことにした。
我に返って俺から慌てて離れた佐久野の顔が赤くなっていた。
すべてのアトラクションで楽しんだくらいに日が暮れて閉園の時間が近付きてきた。
『そろそろ帰ろうか』
羽野はそう言った。俺と佐久野は頷いた。そして俺達は出口へ向かった。
あの後特に不幸と思える出来事は起こらなかった。俺にはそれがどうしても不気味に思えてしまった。このまま何も起こらなければいい。そう願った。
遊園地から出て駅へ向かう。思った以上に人が多く周りが全く見えない。
『二人共大丈夫か?』
俺は声をかけた。
『大丈夫だぞ。にしても人が多いな』
羽野から返事があった。
『佐久野さんは?』
もう一度聞いたが佐久野からの返事がない。
『佐久野さん?』
俺は不安になって振り返ろうとした時
『新瀬!佐久野さんがいない!』
羽野がそう言った。この人混みの中俺達は佐久野とはぐれてしまったのだ。




