12話 真の始まり
俺が佐久野に告白した次の日、佐久野は学校に来なかった。
俺に不幸が起こらないようにするためか、それとも体調が悪いのかもしれない。それは、どっちかわからない。
『佐久野さん、今日来てないな』
体育の時間のランニング中に羽野が話しかけてきた。本当の理由がわからないから、俺は適当に、
『そうだな』
と、答えた。その返答に不満を持ったのか、
『昨日、帰りに何あったんだ?』
そう尋ねてきた。恰も俺が昨日の帰りに佐久野に会ったことを知っているかのような質問だ。だから俺は少し驚いた。
『な、何でだよ!?昨日は佐久野さん早退したじゃないか!』
俺の返答と聞いて、羽野が確信を持ったかのように、ふ~ん、とニヤついた顔をした。
『帰りに会ったんだな。佐久野さんと』
このとき、俺は心の中でしまった、と思った。まんまと羽野に嵌められてしまったのだ。
『あぁ、会ったよ』
俺は不機嫌な顔をして答えた。
『何だよ、そんな機嫌悪そうな顔すんなよ。で、ちゃんと言えたのか?』
羽野がワクワクして聞いているのは言うまでもない。俺はそんな羽野を見て、少し呆れた。そして、軽くため息をついてから、
『ちゃんと言ったよ。全部』
『それで気を使って、今日佐久野さん来ないんだな』
『体調が悪いだけかもしれないだろ?』
『そんなはずないって!絶対お前に不幸が起こらないようにするためだって!』
『………』
俺は何も言わなかった。仮に佐久野が、俺に不幸が起こらないようにするために学校を休んだのなら、俺はどうすればいいんだ?
少しの間、その事だけを考えながら体育を続けていた。今日の体育はサッカーである。
しかし、当然だが集中できるはずもなく、
『何やってんだよ、新瀬!』
周りに迷惑ばかりかけていた。俺は、ごめんと謝ってばかりであった。
そんな俺を見て、羽野が近付いてきた。
『さっきからずっと何悩んでんだよ?』
原因はお前だと言いたいところであるが、そんなこと言っても解決できる問題でもないので、
『俺どうすればいいのかな?』
『はぁ?今さら何言ってんだよ!お前は、とにかく呪いと戦えばいいんだよ。お前が考えなきゃならないのは、佐久野さんのことより、呪いのことだろ?』
確かに羽野の言う通りである。今は佐久野のことを心配しても仕方がない。呪いと戦って勝つことができれば、自然と佐久野は学校に来るじゃないか!
俺は小さな声で、羽野にありがとうと言った。すると、羽野も小さな声で、
『気にすんな』
と言った。
そして体育が終わる時、全員がグランドの真ん中に集合しようとしていたので、俺も真ん中に向かおうとしたその時、俺のその光景を偶然見ていた一人が、
『新瀬、危ない!!』
と、とても大きな声で叫んだ。そして次の瞬間、
ドーン!という、とても大きな音がすぐ後ろから聞こえた。俺は恐る恐る振り向いた。するとそこには、サッカーのゴールが倒れていたのだ。
俺がもう少し後ろにいたら、ちょうどポストの部分が頭に当たるところであった。俺は驚きと同時に恐怖を覚えて、その場にしゃがみ込んでしまった。
そして、昨日の告白によって呪いのリミッターが外れたのかもしれない。俺はそう思った。
冷や汗が止まらない。しかし、負ける訳にはいかないので、
『これからが真の戦いだな』
誰にも聞こえないくらい小さな声でそう言うと、俺は立ち上がった。そして、倒れているゴールに向かって拳を突きつけた。




