11話 告白
帰り道、俺は一人で家に帰っていた。何もない、いつもの道である。
しかし、今は違う。佐久野が帰ったあと、何もなかったといっても油断はできない。いつ何が起こるかわからない、そんな危険な道になってしまったのだ。
ゆっくり安全を確認しながら歩いていく。少しずつ家が近付いてきた。
そして、その時ふと思った。偶然、佐久野に出会うことはないのかと。
もうすぐ佐久野の家の前を通る。俺は、まさかそんなことはないだろうと思い歩いていった。何故なら佐久野は体調不良で早退したのだ。外に出てくるはずがない。
しかし、そんな時に限って予想は的中するものである。俺が佐久野の家の前を通りかけた時、バタンというドアの閉まる音が聞こえた。そしてその音のする方に振り向いた。すると、そこには佐久野が立っていたのだ。
『さ…くの…さん?』
俺は思わず声が出てしまった。その声が聞こえたのか佐久野がこちらを向いた。
『新瀬君…』
佐久野は目を逸らした。
『体調はもういいの?』
俺は質問した。すると、佐久野は軽く頷いて、うんと言った。
『でも、ごめんなさい。やっぱり家に戻るね』
そう言うと佐久野は振り向きドアに手を掛けた。しかし俺は、タイミングは今しかないと思った。
『ま、待って!』
佐久野を呼び止めた。
佐久野はドアに掛けていた手を放しこちらを向いた。
『何?』
佐久野の視線が冷たい気がした。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
『少しだけ話がしたいんだ』
『………わかった』
そう言うと佐久野は俺の元に近付いてきて、目の前で止まった。
『話って?』
『うん…俺、佐久野さんを助けたいんだ』
『え?』
佐久野は驚いた顔をした。しかし、その表情はすぐに暗くなった。
『馬鹿なこと言わないで!』
『俺は本気だよ。佐久野さんの呪いと戦おうと思ってる』
『戦うって…そんな得体も知れないのに戦える訳ないじゃない!』
佐久野の声が強くなった。
『そうかもしれない。でも、どんな不幸が起こっても俺が全て乗り越えられたら、いつか呪いは消えるんじゃないかなって思ってるんだ』
佐久野の顔が段々と険しくなってきた。
『そ、そんなことダメに決まってるじゃない…私が許さない。それに何で私のためにそんなにしてくれるの?』
『最初は俺もよくわからなかったんだけど、佐久野さんの笑顔を見た時から、この笑顔を誰に対しても見せれるようにしたい。そんな生活ができる生活を佐久野さんに取り戻してあげたい。そう思ったんだ。それに…』
俺はそう言いかけて口が止まってしまった。この先を言ってしまったら後戻りはできない、そう思ったからだ。
『それに?』
佐久野は俺に続きを求めた。俺の意思は変わらない。真っ直ぐ佐久野の方を向き、
『佐久野さんが好きだから』
ようやく言えた。そんな気がした。
『え!?』
しかし、佐久野は俺が何を言ったのか理解できていないような顔をしていた。少しの間、混乱しているようだった。
そして、しばらくして佐久野が、
『何言ってるのよ!そんなこと言ったら死ぬかもしれないんだよ!?』
そんなことは十分承知していた。だから俺は、
『じゃあさ、死ななかったら付き合ってよ』
佐久野の顔が真っ赤になった。そして、
『……………』
何を言ってるのか聞こえなかった。しかし、佐久野は急に振り向いて歩いていき、ドアを開けて家の中に入ってしまった。




