10話 束の間の休息
佐久野が帰った次の時間は偶然なのか、自習だった。
『自習とかラッキーだよな!』
自習とわかって、すぐに羽野が俺の元にやって来てそう言った。しかし、俺はそんなことどうでもよかった。今日はもう佐久野に話かける機会がなくなってしまったからだ。
『そうだな…』
『ん?元気ないな。せっかく自習だっていうのに』
羽野は不機嫌そうな顔をしていた。しかし、その顔はすぐにニヤついた顔になった。
『ふ~ん。帰っちゃったもんな、佐久野さん』
『え!?』
羽野の突然の発言に驚いてしまった。
『何驚いてんだよ。お前が佐久野さんのことを好きってことは皆わかってるんだから』
『な、何言ってるんだよ!』
『お前の行動見てたらわかるよ』
『………』
返す言葉がなかった。実際、羽野の言ってることは間違いではない。しかし、皆に知られているとは…そんなに行動に出ていたのか。
『それより皆お前のこと心配してる』
『何で?』
意味がわからなかった。何故、皆が俺のことを心配するんだ?
『そりゃ呪いだよ。佐久野さん呪われてるって言ってただろ。本当のとこどうなんだ?あれは嘘なのか?』
まさか、皆がそんなに佐久野の呪いのことを気にしていたとは、思っていなかった。
『たぶん本当だと思う』
『え!?それ大丈夫かよ!』
『わからない。でも、俺は呪いと戦ってみようと思うんだ』
『そんなの危険すぎるだろ!』
『その言葉、佐久野さんにも言われたよ。でも俺決めたんだ』
『何でそこまで?』
『うん、楽しそうに笑う彼女の笑顔を知ってしまったから。俺はその笑顔を取り戻したい』
そう言うと、羽野は軽くため息をついた。そして、俺の肩に手を乗せて、
『カッコイイこというじゃないの。わかった、そこまで言うなら俺も応援する!その代わり負けんなよ!』
『うん、ありがとう』
そして、羽野は席に戻っていった。
俺はため息をついて手で頭を押さえながら考えた。
あぁは言ったけど、実際どうやって呪いと戦えばいいんだろう。全ての不幸に勝てば俺の勝ちか?そもそも不幸が終わることがあるのだろうか?
そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていた。すると、
『新瀬…君』
呼ばれて顔を上げると、前に座っている段坂が振り向いて話しかけていた。太縁の眼鏡を掛けていて、少し大人しそうな女の子だ。急に話しかけてきたので少し驚いた。
『段坂さん、どうしたの?』
『えっと…その、ごめんなさい。盗み聞きしてた訳じゃないんだけど、呪いと戦うんだって?私も応援する。頑張って!』
彼女から言われた意外な言葉に俺はさらに驚いた。しかし、嬉しかった。応援してくれる人がいると、頑張ろうという気持ちになるものだ。
『うん、ありがとう』
そして、彼女はニコッと笑うと前を向いて本を読み始めた。
その後は、思いたくはないが、佐久野が帰ったからなのか、不幸と呼べるようなことは一切起こらなかった。
そして放課後になった。




