第九話 「実演」
「ふふ、楽しみですね、この森の先には何が待っているのでしょうか?」
歩きながらルナが嬉しそうに話しかけてきた。
「あぁ、そうだな、面白いことがあると良いな」
「あるに決まっているじゃないですか!人間の世界ですよ!きっと立派なお城があってカッコイイ騎士様が綺麗なお姫様を守っているんですよ」
「ここはそんな世界なのか。でも妖精なんて珍しいんじゃないのか?捕まって見世物にされないように気を付けろよ?」
「なんてこと言うんですか!?」
プクリと頬を膨らますルナを見ていると自分でも不思議なくらい気持ちが落ち着く。
一緒に来てくれて本当に良かった。俺一人だったらこんな余裕は持てなかったに違いない。そんなふうに思いながら二人でのんびりと歩いていく。きっと楽しい旅になるだろう。
と、そこで前方遠くに何かがいるのを発見した。
「ルナ、あいつは何だ?」
「あれはタイガーウルフですね。ファンが最初に襲われていた魔物ですよ。」
「あ~、あいつか…あの時は殺されかけたが…どれだけ強くなったか確かめてみるか。」
タイガーウルフはまだこちらに気づいていなかった。距離はおよそ20メートルといったところか、当然俺の射程距離内である。近接戦闘にはまだ不安があったので遠距離から弱らせる作戦をとる。攻撃に邪魔にならないように遮る物のない位置まで静かに移動する。
半身に構え、目標に向けてまっすぐ腕を伸ばし軽く指を広げ、掌が獲物に向くように少し手首を上げる。まずはそのまま試させてもらおうか。
「いくぞ、“雷撃”!!」
おなじみの破裂音を伴い、幾重にも放出された稲妻が獲物に直撃する。こちとら攻撃に関しては雷速である。避けれるはずもない。
もろに雷撃を浴びたタイガーウルフは二、三歩よろけた後、煙を上げながらドサッと巨体を横たえた。
「死んだかな…?」
「えぇ、死にましたね」
恐る恐る近寄るも動き出す気配は全くなかった。終わってみれば一撃とはあっけないものだった。
「リベンジ成功だな!」
「こうなるのは分かっていましたけれど…改めて目の当たりにするとあなたの力は射程、威力、速度どれも本当に反則級ですね。おまけに魔力切れの心配もないとは…」
うーむ、そう言われるとそんな気もする。しかし元はこの力は奴のものだ。しかも一部と言っていた。何万年生きてるとかふざけたこと言ってたがアイツどんだけ強いんだ?考えるのも恐ろしいぜ。
「でもまぁこんな感じならこの森もなんとかなりそうかな。」
「ほらー、すぐそうやって調子に乗るから痛い目に合うんですよー。この間の暴走みたいに。タイガーウルフはこの森でも中位から下位の魔物なんですから油断しないでください。まぁ…でもやっぱり大体は何とかなると思いますが…」
ルナに釘を刺されたが後半部分、ぼそぼそ言ってるけどちゃんと聞こえてるんだぜ?
とまぁ冗談はこれくらいにしてまじめな話だが、遠距離から一撃で倒せるのは良しとしよう。しかし問題は一撃で倒せない敵、もしくは遠距離攻撃を放つ余裕がない敵。つまり近接戦闘に持ち込まれた場合の対応にまだ自信がない。もちろん策は考えてはあるが、どこかに手頃な実験相手はいないものか…もう一匹さっきの狩るか?近くにいねーかな?
キョロキョロと実験相手を探していたら、突如、轟音が鳴り響き空気の温度が数度上昇していくのを感じた。そして前方から巨大な太陽…いや、火の玉が凄まじい勢いで俺に向かってきていた。
「ッ!?“砂鉄の盾”!!」
咄嗟に地に手をつき、雷力操作で大地ごと砂鉄を引っ張り出した。緊急とはいえ、砂鉄の盾というよりももはやただの土壁であったが、しかしそれでもなんとか火球を防ぐことに成功した。
そして直後、命の危機を免れて一息ついた俺を再度全力で警戒態勢に入らせる程の、とてつもないプレッシャーを放ちながらそれは姿を現した。
「なんだキサマ?何故今ので生きている?ここは人間なぞがいて良い場所ではない。速やかに死ね!」
口から炎を噴き上げているそれは紛れもなく龍だった。
次回、書いてる僕の方が楽しんでます笑