第八話 「旅立」
――力の使い方を教えてやる――
アイツが言っていた言葉の意味を唐突に理解した。
全身を駆け巡る雷力が今までとは別次元だった。
雷力とは俺の力は魔力とは違うようなので勝手に名づけただけだが、魔法の力を魔力とするなら雷の力は雷力だろう。安易かもしれないがあながち間違ってはいないはずだ。
「放電」
バチバチッと湧き出す青白い閃光は以前までの俺とは威力、精度共にまさしく桁違いであった。昨日までは四肢の末端まで雷力を流し込むのはどうしても時間がかかっていたが、今は一瞬で、しかも細胞単位のレベルでそれができるようになった。
際限なく湧き出る雷撃に力を加えて鳥の容姿を造形し、天高く舞い上がらせ自由自在に操ってみる。まさしくサンダーバードか雷鳥か。出力を抑え雷鳥の姿を消し去り遠隔操作も十分可能なことも確認できた。
ここまで電撃を扱えるなら今まで構想の中にあったたくさんのことが実現できるかもしれない。そう考えるとワクワクが止まらなくなってくるが、アイツのおかげ、というかアイツのせいかと思うと少し複雑な心境にもなってくる。
「しかしなんにせよ俺は戦える力を手に入れた。アイツには届かないだろうが俺はまだまだ強くなる。とにかく旅に出よう。ルナにも説明しないとな…」
俺の唯一の話し相手である小さな妖精のことを考える。この3日の間にもあの子は随分と俺の世話を焼いてくれた。ルナと別れるのは寂しい。本音を言えば離れたくないがそう甘えてばっかりいるわけにもいかないな。この世界での俺の目標は決まった。危険な旅になるんだ、あの子を巻き込むわけにはいかない。気持ちを隠して決意を伝える。そう決めて彼女を呼んだ。
「ルナ」
「はい、どうしました?今日は早かったですね、まだお昼過ぎですが休憩にします?」
名を呼ばれて泉の上に姿を現した彼女はぱたぱたと俺の下に飛んできていつもと変わらず優しい顔で俺に微笑みかけてくれた。
「いや、もう終わったよ。」
「え?」
俺はもう一度、今度は手のひらサイズの雷鳥を作り上げ空に飛ばした。彼女ならこれだけで分かってくれるだろう。
「うそ…完全に制御されて…すごい…ファン、何があったのですか?」
目を丸くして驚いたルナはすぐに神妙な顔になり俺に問うてきた。
そして俺は全てを話した。シデンという存在…力の痕跡…そして殺しに来いという言葉まで。
「だから俺は旅に出るよ。アイツだけは必ず見つけ出してやる。ルナ、ありがとう、君には随分世話になった。」
「そうですか。わかりました、じゃあ行きましょうか!」
「あぁ、行ってくるよ…て、え?行きましょうか?ん?」
「なんて顔してるんですか?まさか私を置いていくつもりだったんですか?」
「えぇ!?だってこれは俺の旅で…危ないし…」
「私は邪魔ですか??」
「いや、そんなことは!俺だって来てくれたら嬉しいけど…」
「じゃあいいじゃないですかっ。私はずっと外の世界に憧れていたんです!ずっと外に出たかった!だから、あなたの力を見たときに決めたんです。私はこの人に着いて行こうと。この人なら私を守ってくれるんじゃないかって。だから…よろしくお願いしますね?」
にっこり笑うルナを見て俺は心に誓った。男として必ずこの笑顔を守ろうと。
別れを決意していた俺の心は一瞬で瓦解し、ルナと行動を共にすることに決めた。
だって俺だってルナと一緒にいたかったんだからいいじゃないか。それに一人より二人の方が安全に旅できるだろう。ルナなんか回復魔法だって使えるんだから。そう、俺は慎重な男、利用できるものは利用するニヒルな男。決して意志が弱いわけでもヘタレでもない。
こうして俺たちはついに精霊の泉を出て、森に入ることになった。
人里を目指して、お互い知ることのない未知の世界へ期待と不安を抱きつつ歩を進めていくのだった。