第三話 「出逢い」
「はぁ...はぁ... い、今のはいったい...」
静寂が鳴り響き、後に残されたのは焼け焦げた大地と消し炭と化した巨大な何かだった。
立ち上がろうとしたが体に力が入らなかった。腰が抜けたとかそんなものではなく、おそらく体内のエネルギーが足りていないのだ。
先の放電は時間にしてはほんの一瞬の出来事であったが、その一撃で全身から全てを持っていかれたのだ。
ありったけを集約させたその一撃の破壊力は推して知るべし。
いや、目の前の消し炭が物語っていた。
「ふふ、ははは、あははははっ」
力の入らない体を大地に横たえながら何故か笑いが込み上げてきた。
どうやら俺は雷に打たれて異世界に飛ばされて、この身にその雷の力を宿してしまったらしい。
ここに来た時に感じた違和感はこれだったのか。
死にかけた恐怖と、助かった安堵と、謎の力のせいで混乱した頭では、果たしてどのような感情なのだろうか、理解できないままに俺は笑いを止めることができなかった。
しばらくして落ち着いてきた俺はまずは体力を回復させるためにバナナのような果物と泉の水を口にして今後を改めて考えた。
この世界は安全ではない。身をもって体験した以上、この問題は早急に対処しなければならない。いつ、また何かに襲われるか分かったものではないのだ。
幸運なのは、力を持っていたことか、先の遭遇は乗り越えられた。
ならばまずは自身が強くなること。これは絶対に必要だった。
「差し当たってまずはこの力を把握することだな。」
そんなことを考えながら身体を休めていると淡く輝く光の球が俺の下によってきた。
「あ、あの...その...大丈夫ですか?」
光が喋った!?
なにこれ、どこのファンタジー??
などと考えながらも敵意は感じないので返答に困りつつ目元に手をかざし、薄目を開けて光を観察する。
「あ、すみません、眩しいですよね...ちょっと待ってくださいね。」
そして徐々に輝きは収まっていき、現れたのは羽の生えた小さな空飛ぶ女の子だった。
想像でしか知らない生き物だった。
驚愕を隠しきれずに、しかし確信を持って問う。
「き、君は…妖精…なの?」
「はい、ここは精霊の泉。妖精の棲家。人間の世界から遠く離れた場所です。あなたはここでなにを?」
「やっぱり…それにしても精霊の泉か。確かにこの幻想的な光景では精霊がいると言われても疑えないな。俺は…」
俺は…ここで何を?自分でもわからないのだ。答えようがなかった。
「俺は…気が付いたらここにいたんだ。」
そして、おそらく雷によって異世界から飛ばされたこと、この身に秘める力も素直に話した。
「なるほど、だからあなたからは不思議な魔力を感じられるのですね。先ほどの魔法も込められた魔力からはあり得ない出力でした。そもそもあんな魔法は見たことがありません。」
「やっぱり魔力とかあるんだ。っていうか見てたんなら助けてよ。死ぬとこだったんだぜ?」
苦笑交じりにそう言うと、小さな妖精は少し恥ずかしそうにうつむいて
「あ、あの…私…戦闘は苦手で…ごめんなさい…」
と、ぺこりと頭を下げた。
この子だからなのか、妖精が全てそうなのかわからないが、何とも可愛いものである。
「あ、でも、回復とかは得意なんですよ!」
すっとこちらに寄ってきて俺のおでこに手を当て、むんっ、と可愛く力んだ。
瞬間、淡い光が俺を包み、体から疲労感が抜けて力が満ちてくるのがはっきりとわかった。
「えへへ、どうですか?」
と、汗もかいていないくせに額を拭いながら笑顔で問いかけてくる彼女はとても愛らしかった。
「それで、ここはどこなんだい?とりあえず俺は人里に行きたいんだけど」
回復を施してくれた可愛いらしい妖精にお礼を言い、一番気になっていることを聞いてみた。
「ここはリノア大陸の最果て。人の踏み入らない、人間からすれば未開の秘境の奥地です。
この森を抜けて山を越えてその先には人の住む世界もあると聞きますが私にはなんとも…」
「まじかよ…」
どうやら俺は今とんでもないところにいるらしい。
しかしこんなところに一生いるわけにもいかない!
俺はこの世界で前を見て生きていくと決めたんだ!
「わかった、ありがとう。俺は森を越えていくよ。山も何もかも越えて絶対に人里まで行ってやる!」
意気揚々と宣言した俺を小さな妖精は不安そうな顔で眺めて
「でも、森にはさっきみたいな…」
「ギャオオォォオオォオォ」
「グルルアアァァァアァァ」
言葉をさえぎって遠くから獣の咆哮が聞こえた。
「えっと…もうちょっとここで強くなってからいこうかな…」
「はいっ」
俺の引きつった顔とは対照的に、嬉しそうに破顔した彼女は綺麗な瞳で俺を見つめていた。
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