第二話 「発現」
「ステータス!」
出ない…
「スキル!」
出ない
「鑑定!」
…
なんも出ねぇじゃねーか!!
なんだこれ、俺のしってる異世界じゃないぞ!
俺が知ってるのはもっとこう…レベルとかスキルとかがあってステータスが見れてチートとか貰えてみたいなそんな感じなんだが、どうやら想像とは違うらしい。
もはやこの現実が夢だとか幻だとかそんな幻想は捨てた。
理由とかはさっぱりわからないけど今、俺はここにいて、ここで生きていくしかないのだと受け入れた。
元の世界に未練がないわけではないが、戻りたくても戻り方が分からない。
せっかく生きているんだから前を向いて生きよう!
そう決めたんだ
となるとしなければいけないことはまずは食料の確保だ。
幸いなことに水はこの神秘的な泉の水でなんとかなりそうだ。相当な透明度で決して浅くはないであろう深さの水底まではっきりと見えている。
さっき、少しばかり口にしてみたが、かなり冷たく仄かな甘味も感じられた。問題なさそうなので飲み込んでみたが内面から浄化されるような、力が湧き上がるような何とも言えない清涼感を得た。これは…美味い。
水は良しとして次に食料だが、どうやらこの森は栄養に非常に恵まれているようだ。
大きく育った木々には様々な果実のような物がぶら下がっている。どれが食べれるのかはよく分からないがこれだけあればすぐに飢えるということはないだろう。
試しに手が届く範囲にたくさん生っているバナナのような果物をもいで皮を剥いてみる。
甘い匂いが嗅覚をくすぐってくる。
一口、少しだけかじると柔らかな果肉が爽やかな甘味と共に口に広がった。
うむ、美味である。
甘い果肉を食し、泉の水を飲む。
うん、異世界いいじゃん!
この世界への希望が見えてワクワクしてきた時に背後でガサリと音がした。
「へ?」
間抜けな声を出しながら振り返るとそこには巨大なトラ?狼?よく分からない生物が牙を剥いて俺を睨んでいた。
「ガァルルゥオォォ!!」
「うわあぁぁぁっ!!」
巨大なそいつは弾けたようにこっちに飛んできた。
巨大な牙と巨大な爪を振り上げて。
「なになにっ!?むりむり!?死ぬってまじで!?」
そんな言葉を叫んだような気もするが死ぬ気で横っ飛びでそいつの攻撃を避ける。
どうやら噛み付くつもりだったらしい、すぐ側でガチンッと歯がなる音が聞こえた。
ソイツは避けられたことが不満そうに鼻を鳴らすとまたもこちらへ飛びかかる体制を見せた。
やばい、このままだとまじで殺される。
焦る心とは別に体はなんの反応も起こさない。
当たり前だ、今までの平凡な人生にこんな経験はない。
今避けれたのも奇跡に近いのだ。
地を這いながらも地面に落ちている枝や石を投げつけることしかできない。
なんの慰めにもならないがどうしていいかも分からない。
ソイツは顔に向かって飛んでくる邪魔な物を鬱陶しそうに前足で弾く。
そしてガオッと一声吠えてから一足飛びで距離を詰めて爪を振り上げたーー
あ、死ぬわこれ。
避けれない。
振り下ろされる爪の軌道がはっきり見える。
もの凄くゆっくり爪が降りてくる。目では追えているが体は反応できない。
左肩から斜め下に切り裂かれるまでが想像できる。
死ぬ。死ぬ?こんなわけの分からないところで?
怖い、嫌だ、死にたくない!!
「うわあぁぁぁああぁぁっ!!」
あらん限りの力で叫んだ。
全身に染み込んだはずの違和感が弾けた。
それは攻撃ではなくただの放電だった。
いつか聞いた轟音と共に全身から凄まじい勢いで噴き出る紫の雷はただ近くにいた巨大なそいつを飲み込んで全てを塵と化した後、緩やかに空気中に霧散していった。