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私の目から涙がこぼれ、

リヒトの目にも涙がたまる。

「やっぱり、シノさんだーー」

ぽろり、と涙をこぼした。


クロエとリヒトは抱き合って、泣いた。

「り、りひとくんいなくなっちゃって、さみしくてーー」

「私も驚きました、急にこちらに戻って来てしまって...」

リヒトはそのときのことを思い出した。

「ど、どうして、分かったの?私、もう全然違うのに...」

クロエの目の周りは赤くなり、化粧もくずれてしまったが、全く気にならなかった。

「プリン。」

「プリン?」

「あのプリンを食べて分かったんです。」

リヒトは恥ずかしそうに言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


貴族のご令嬢が、あの牧場に出入りしている。それを聞いた時は嫌な気分になった。

ご令嬢が何をしに来たかはしらないが、どうせ引っかき回して迷惑をかけていくだけだろうと。


牧場の持ち主とは長い付き合いだ。

隣国からこの国に来たときに、偶然知り合った。彼は、隣国へ行きたがっていた。

その頃、隣国との戦いは激しく、ただの人間ならば危険なことだった。

それでも行きたいという彼のため、共に隣国へ向かうことにした。彼はなんだか良く分からない機械を譲り受け、この国へと帰ってきた。

帰りも護衛としてついて行った後、その流れでここに就職するはめになった。


この国で初めての居場所を作ってくれた彼に、こっそり感謝している。


そんな大切な場所に、よそ者が入り込んでいるのだ。

私はすぐに確認しに行った。


そこにいたのは、少女だった。

一瞬、その美しさに目を奪われる。

(...どうせ男や親ににチヤホヤされて、甘やかされて育った女だ。)

初対面の少女に対して抱く感情ではないが、そう思わせるくらい、クロエは魅力的だった。

大切にしている牛に近づくことも嫌だったし、コックやオーナーと呼ばれる彼に可愛がられるクロエを見て、腹の中がドロドロしていた。


「お前、あの子のことなんでそんな嫌なんだ?」

ある日、獣人仲間かつ仕事仲間であるロビンに言われた。

俺は、答えようとした。

男をたぶらかしてるところ。

牧場に入ったところ。

親に甘やかされてるところ。

金持ちなところ。

そう、答えようとした。

しかし、できなかった。

(男をたぶらかしてる?本当に?コックやオーナーは娘のように可愛がっているだけだ...。

よそで男をたぶらかしてるに違いない!...見たことないのに?

牧場に入るな!...俺の牧場でもないのに?

親に甘やかされてる?ほとんどここにいるのに?遅くまでいても迎えに来ないのに?

金持ち?それはあの子と関係ない、の、に...?)


全部、思い込みだった。

自分が大切にしていた場所を、取られた気分になっただけだった。


そんな日、初めて少女に近づいてみた。

楽しそうに、コックと料理してる。

ただの、幼い、少女だった。

自分が嫌になって、涙が出た。

恐ろしかった。

なんの罪もない少女を、こんなに憎んでいたことに...


だから、そこから去ることを決めた。

自分がいていい場所じゃない、と。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そうしたら、お嬢様、いや、シノさんがプリンをくれたんです。」

「お、覚えてる...」

また涙がポロポロ零れ落ちた。

「それを見たとき、なんだか懐かしい気がしました。」

「忘れちゃってたの?」

「...20年近く経ってたんです。あの時のことは、もう夢だと思うようにしていました。」

リヒトの目からも、ポロリと涙が落ちた。

「それでも、食べた途端、思い出しました。ああ、これは、シノさんの味だって。」

頬に涙の川ができる。

「い、言ってくれたら、」

「シノさんが覚えてるとは思わなかったんです。見た目も別人だったし。だから、一人であなたを護り続けよう、そう自分に誓いました。」

クロエは顔を覆って泣き出した。

「うっ、うう、わ、私もあの時、りひとくんのことかんがえてた...プリン食べて、おんなじように、言って、くれた、な、って、、」

あの時の涙は、前世を懐かしむより、リヒトを思い出してのことだった。


リヒトとクロエは抱き合い、泣き通した。


前回でリヒトが白い犬の獣人だと思った方。

....うふふ

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