八
-記憶-
いつも通り大学に行って、
家に帰って、
扉を開けたら、
仔犬が座っていた。
足が止まる。
思考も止まる。
よく見れば、小さい子供だ。
いぬみみ付きの。
年齢は、だいたい5、6歳だろうかーー。
ふわふわの栗毛に、同じく犬耳。
クリッとした瞳はペリドットのようで、とても可愛らしい。
「えーっと、」
子供がきょとん、とこちらを見上げる。
「お姉ちゃん、だれ?」
「私、は、シノ。ここは私の家なの。君は?だれ?」
思わず直接的に聞いてしまった。
「...ぼくは、りひと。」
おずおずと答える。
「りひとくんね。」
「ーーうん。」
「りひとくん、どこから来たの?」
「ーーわかんない...」
りひとくんの目に涙がたまる。
ーー不安だよね、知らない場所にきてーー
私はりひとくんの頭を撫でた。
思った以上にふわっふわ。
やはり犬耳も本物なようだった。
しかし、りひとくんの毛は土やホコリで汚れていた。
「よし、お風呂入ろっか!」
りひとくんの服や髪は汚れていた。
「お風呂?」
「うん、体と髪の毛洗おっか。」
りひとくんは恐る恐る、風呂場に入る。
さっきは見られなかった尻尾があった。
「頭洗ってあげる。ここ座って。」
シャンプーをモコモコに泡立てる。
わしゃわしゃ、と洗うと泡が茶色くなった。
「わ、わわわっ、」
「目、閉じててねー。」
バシャッ、とお湯をかける。
「りひとくん、髪白いの?」
泡を流したりひとくんは、白い髪だった。
「あっ....」
りひとくんは頭を隠した。
「ぼ、帽子!」
ハッ、として、上を見上げた。
「え?帽子?」
「す、捨てないで....」
りひとくんは私を見て、涙目になった。
「...え?す、捨てないよ!」
りひとくんは私に抱きつき、小さく泣き出した。
プルプル、と体を振る。
風呂を出ると、りひとくんはくんくん、と自分の体をかいだ。
「あまーいにおいする...」
「ドライヤーかけよっか。」
ブォンというドライヤーの音に驚き、飛び跳ねた。
「熱い?」
「だいじょうぶ。」
りひとくんは目を細めて気持ちよさげにした。
「綺麗になったねー!髪も綺麗になったよ。」
「綺麗?」
「うん!」
「りひとくん、うちに住む?」
リヒトくんは、パッと頭を上げた。
「い、いいの?」
「もちろん。」
一人暮らし用の小さな部屋だが、子供一人なら問題ない。
「で、でもぼく、お金持ってなくて...」
「え!?い、いらないよ!」
子供の言う言葉ではないことに驚いて、りひとくんをギュッと抱きしめた。
びくり、と驚き身体を固めたあと、ゆるゆると力をぬいた。
「大丈夫、私がずっといるから。」
これがただの子供だったら、私は罪に問われるだろう。
でも、りひとくんを放り出すことはできなかった。
りひとくんは私の腕の中で眠りについた。
頬が涙でびしょ濡れだ。
私は、丁寧に頬を拭った。
りひとくんをベッドに寝かせる。
ふわふわの頭を撫でる。
むにゃむにゃ、と口が動いた。
「ーーお姉ちゃん...?」
「りひとくん、おはよう。」
スタッ、とベッドから降り、ギュッと私に抱きつく。
ご飯の匂いをくんっ、と嗅ぎ、きゅるるる、とお腹の音がなった。
「お、お腹すいた...」
りひとくんは恥ずかしそうに言った。
起きてきたときには、もうお昼になっていた。
「ご飯にしよっか!」
「うん!」
りひとくんを椅子に座らせる。
「りひとくんは、スプーンとフォークの方が食べやすいかな?」
りひとくんは、フォークを握ると、不思議そうに見つめた。
「フォークやだ?」
「ううん。」
右手にフォーク、左手にスプーンを握った。
「お子様ランチだよ〜。」
オムライスとハンバーグを差し出す。
「これ、なあに?」
オムライスをフォークで指す。
「オムライスだよ。ケチャップライスを卵で包んだの。」
「たまご!?」
りひとくんの目がキラキラした。
「たまご、好き?」
「初めて!」
りひとくんは、フォークをぐさりとさした。
ぺろん、と卵だけがフォークに残る。
「あっ...」
私が卵とライスを一緒に食べるのと見比べた。
「りひとくん、あーん。」
りひとくんは素直に口をあけた。
「今日はこうやって食べよっか。」
りひとくんは口をいっぱいにして、にっこり笑った。
「りひとくんの服買いに行こうと思うんだけど、りひとくんどうする?」
「お、おいてかないで!」
私の服にしがみついた。
「一緒にお出かけする?」
「する!」
りひとくんに帽子をかぶせる。
「絶対脱がないでね?いい?」
「うん。」
手でギュッと押さえた。
平日にもかかわらず、人が多い。
「りひとくん、どんなお洋服がいい?」
「わ、わかんない...」
きょろきょろと売り場を見渡す。
「じゃあ私が選んでもいい?」
子供服売り場を回り、ポイポイと買い物かごに入れていく。
「こ、こんなにいいの?」
「りひとくんも欲しいのあったら入れてね!」
上下五枚ずつの服に驚く。
人混みに疲れた様子のりひとくんと家へ帰る。
「りひとくん、尻尾出せるように穴あけよっか。」
元はだぼだぼのズボンに尻尾を入れたままだった。
「しっぽ、出していいの?」
「いいよー。でもお家の中だけね?」
「うん!」
ズボンに開けた穴から、尻尾がふりふり覗く。
「よーし、おやつにしよう!」
「おやつ?」
「うん!プリン作っといたんだ!」
「ぷりん?」
「そう、甘ーくて美味しいの!」
「あまくて、おいしい?ぷりん!」
りひとくんはプリンを知らなかったが、甘いものに大喜びした。
「はい、あーん。」
「ーーおいしい、」
ぽろり、と涙を流した。
タグの、トリップ?と逆トリップ?はこれでした。
意外な展開でどうか...ガッカリされてないことを祈りながら頑張ります!
ちなみに前世の回はこれだけです。
次話で戻ります。
読んで下さりありがとうございましたm(__)m
※獣人以外のちびっ子はお家に返してあげて下さい。