十五
「暑いねー」
平和が戻る。
クロエもぐったりとした。
「お嬢、プリンでも食うか?」
プリンは巷で有名な食べ物となっており、量産できるまでになっていた。
「うーん、もっとサッパリヒンヤリの気分なのよね...」
「なんかねーのか?そういうの。」
寒い日に、プリンを温めて食べたことを思い出した。
「あ!!」
クロエはガバッと立ち上がった。
「料理長!牛乳ある?」
「あるよ。」
料理長はにっこりと笑い、今日絞ったばかりの牛乳を取り出した。
料理長のスマートな動きをうっとりとした目で見るクロエ。
(意外にも一番の強敵は料理長かもしれない...)
とここにいないリヒトは思ったとか。
クロエは牛乳と卵、砂糖を器に入れた。
「はい、オーナー混ぜて!」
「俺?俺なのか!?」
試作品を作る時は、だいたいオーナーがこの役回りだ。
正直、他のコックたちはクロエに頼まれたい!とすら思っていたが、クロエが甘えられるのはオーナーと料理長だけ、というわけだ。
「しょうがねーなー。じゃあ順番にな。」
クロエの新しい商品を教えてもらいたい一心で熱心に見つめるコックたち。
それをチラリ、と横目で見てオーナーが決定した。
オーナーより若くて力のある、そしてクロエのファンであるコックが加わったことで、あんなに量のあった液体が混ざり切った。
「んで、どーすんだ?これ。」
オーナーは不思議そうな顔で液体を見つめた。
コックはメモを持ちだしたり、クロエの新作に興味津々。
「これを、凍らせたいんだけどーー」
「凍らせる?そりゃー、無理だ。」
食材を冷やしておく場所くらいはあっても、凍らせることは基本的に不可能だった。
温暖な気候のこの国では、氷を見たことがない者も多い。
王族級の金持ちが涼む為に取り寄せることがあったとしても....
「え?魔術でできるよ?」
実はこの間行われた氷祭りに、クロエも参加していた。
王宮に勤める魔術師ばかりの中で、クロエは優秀な成績を収めていた。
「お嬢、魔術使えんのか!?ーーあ〜、そういや学園通ってたな。」
オーナーたちの前では使ったことがない。
しかも、オーナーのところに通い始めてからあまり学園にも行っていなかった。
「うん、やっていい?」
「おう。」
残念なことに、ここにはクロエの実力を知るものなど、誰一人としていなかったのであるーー。