一
拙いところがありますが、よろしくお願いしますm(_ _)m
モンタリーナ公爵には一人娘がいる。
クロエと名付けられたその娘は、漆黒に輝く髪を持ち、アメジストのような光を放つ瞳を持った美しいレディだった。
クロエは幼少期から英才教育を受け、一人前の淑女になるため奮闘してきた。
いずれ王子と結婚するだろう、と期待され、それに見合うよう努力を重ねてきた健気な女の子である。
ただ、少し残念だったのは魔力が上手く扱えないことであった。
良い血筋であればあるほど、潜在的な魔力は大きい。
もちろんクロエも両親から受け継いだ巨大な魔力を持っていた。
しかし、クロエに足りなかったのは想像力であった。
魔力さえ持っていれば誰でも魔術が使える。
貴族なら多かれ少なかれ魔力を持ち、その魔力に見合った能力を発揮する。
....と思われている。
実は魔力に加えて想像力が重要だなんて、誰も意識はしていなかった。
いや、確かに魔力を上手く使うために、どういった魔術を使いたいか想像することが必要なのは知られている。
みな、意識せずともできることであった。
幼いころから魔術の存在を知り、手から水や炎を出す両親を見て育つため、当たり前のように魔術が身近にあったからである。
もちろん、強力な魔術を子供が扱うことは危険であり、勝手に使わないよう言い含められてはいた。
ただ、子供は「ダメよ。」と言われればやってみたくなるものである。
お遊び程度に使ってみる者、偶然できた者、親に習った者などそれぞれ一度は使ったことがある。
クロエにはそれがなかった。
クロエは王妃になることを期待されるあまり、人との接触をもたず、ひたすら勉学や礼儀作法に打ち込んのである。
母がおらず、父は仕事ばかり。
クロエは機械のように勉強だけをして生きる毎日だった。
魔術の勉強を始めるころには、クロエの思考力はその辺の大人と同じくらいまで成長しており、非常に現実的な少女に成長していた。
本で魔術のことは知っていた。
しかし、自分がそれを実現することに結びつけられなかったのである。
そんなこんなでクロエは魔術を使えなかった。
あとからそれに気づいた大人は、どうにかクロエに想像力を与えようと色々な手段を試みたが、成功しなかった。
これがクロエの今までである。
そんなクロエは魔術学校でも浮いた存在となっていた。
公爵令嬢であり、知性と美貌で有名なクロエであったが、一粒の水滴さえ、火花さえも起こせないクロエは稀にみる劣等生であった。
薄まった血を持つ貴族の端くれであっても、コップ一杯の水くらいは出せたものだ。
「どうしてこう、上手くいかないのかしら.......」
クロエは悩んでいた。
魔術を使えないことはまだ良いのだ。
貴族のご令嬢が自分で魔術を使うことはそう多くない。
従者かメイドが付き添い、生活に必要なことを代わりに行うからだ。
問題は、魔術が使えないことによって、その血筋が疑われていることであった。
0と1の差はそこにある。
魔術を使えることが貴族の証である。
それがないクロエは、「庶民が紛れ込んだのでは?」などと、クロエの美貌を羨む生徒から言われることもあった。
母がいないこともあり、
「あの美貌だ。母親も同じように公爵をたらしこんだに違いない。」
と根も葉もない噂も流れていた。
これにより、子供の頃から一緒に育った王子や宰相の息子も、クロエを避けるようになっていた。
次代の王や次代の宰相となる彼らと親睦を深めることも王妃となるクロエの仕事の一つであった。
それが今では、話し掛けるクロエに対して、「ああ、」とか「そうだな。」と相槌を打つだけになっていた。
クロエの父は最近クロエに、学園を辞めることも提案していた。
「外聞が悪い。」
とだけクロエに言って、やめるように言った。
親の期待に応えてきたクロエには、衝撃の一言だった。
しかし、幼少期から曲がらず真っ直ぐと育ったクロエは、諦めるという言葉を知らなかった。
そして、事は今日起こった。
初めまして、クロエ・モンタリーナ、14歳です。
突然ですが、王子から婚約破棄されました。
今日は婚約者であるエドワーズ王子に会いに行っていたのですが、
「ベタベタまとわりつくな!」
「もううんざりだ!」と怒られてしまい、婚約破棄をすることになってしまいました。
クロエとしては王妃になるために頑張っていたので....相当なショックを受け....
前世の記憶が戻りました。
14歳の脳に前世での記憶が滝のようにドドドドッと勢いよく流れ込んだせいで、私はバタンと倒れてしまったのです。
まあ、幸い怪我に繋がることなく、そのまま屋敷へと帰ってきました。
父も義母も、私が王妃になることを疑っていなかったのでしょう....
ショックの色を隠せていません。
「クロエちゃん、どうするの!?婚約破棄だなんて...」
まあ、まだ14歳の子供ですし、いずれまた婚約者として...なんて王妃と義母は話したそうですが。
すみません、父上、義母上!
私の好き勝手に生きさせて頂きます!
濡れたような柔らかな黒髪に、アメジストのような妖しい光を持った瞳、ぽってりとした桜色の唇にほくろ。
14歳にしてなんともコケティッシュな魅力を持った少女、それが私です。
一人で街を歩くものなら即誘拐されるであろう美貌です。14歳ですが。
男をたくさんはべらせていそうな見た目です。14歳ですが。
前世は平凡中の平凡顔だったので、正直とても嬉しいです。
将来有望です。このお顔。
しかし、私は知っています。
こういう顔は誤解されやすいことを。
「あ、なんか男はべらせてそう〜」とか、
「あ、悪女っぽい顔〜」とか、
「あ、なんか色っぽい顔〜」などと、私自身が鏡を見て思ったくらいです。
これが、他人になると、
ちょっと男の人と話しただけで「あ、男はべらせてる!」と言われ、
ちょっと人の男と話しただけで、「誘惑しないで!」と言われ、
話した男にも「君が誘ったんだろ?」なんて言われてしまうのです。
それに加えて王子の婚約者候補筆頭。(婚約経験あり)
これは、キケンです。
このままだと確実に将来いざこざに巻き込まれることでしょう。
それが嫌なのです。
男女のいざこざの対処法なんて分からないですし、そもそも王妃とか面倒そうです。
なので、自由に生きたいと思います!
私の前世は実家が農家だったようです。
とても田舎でしたが、自由に広い土地で色々な作物と動物を育てていました。
その中でも私が可愛がっていたのは牛です。
牛はのんびりとした動物で、あの白と黒の模様がなんともいえず可愛いのです。
鳴き声だって、モォ〜とゆったり鳴くのです。あんな優雅で素敵な動物は他にはいません。
もちろん牛肉だって食べます。
農家はその辺はシビアです。
牛を可愛がるあまり、肉にできないなんてことはあってはならないことです。
あくまでも商売ですから。
牛のおかげで毎日美味しいご飯を食べさせて頂いていました。
まあ、わたしが特に可愛がっていたのは乳牛だったのですが。
この世界にも牛はいるようです。
それを知ったときの私の喜び!
すぐにメイドに牛を見ることができないか尋ねました。
両親は、婚約破棄があってから、様子が変わってしまい、私に全く興味がなくなってしまいました。
顔も合わさず、話もしない。
ただの14歳児なら、心に傷を負っていたでしょう。
実は相手を獣人にするかで迷ってます。
....獣人人気ってどうなんですかね?
幼女→少女へ変更しました。