3【新】
これは何年か経って(そんなに経っていったっけ?)、やっぱりハッピーエンドがいいなあ。と思って投稿させていただきました。
以前の3は消すのがもったいないので、【旧】として残します。
自分勝手ですみません。
当日になった。
初めにドアから出てきたのは蕾の母親だった。
蕾の母親は後ろを振り向くと、そちらに向かって手招きする。
「蕾、来なさい。せっかく皆さんが蕾の誕生日を祝ってくれるのよ」
「でも、お母さん!恥ずかしいよー」
なにやら裏でごそごそとやっている。
「蕾ー」
俺が蕾がいるであろう場所に声を掛けると、蕾の母親が開けたドアに隠れるようにする小さな影がビクッと動いた。
「ほら、蕾。恥ずかしがってないで出てきなさい」
蕾の母親はその小さな影の元へ行き、その腕を引っ張る。
「わっ」
そこから現れたのは、見慣れたパジャマ姿ではなく、レースが施された薄桃色のドレスに去年俺が蕾の誕生日にあげたビーズで出来た花のネックレスを着けた蕾の姿だった。
普段着なれない服に慣れないのか、大勢の前で恥ずかしいのか、少し照れた様子で微笑む。
はきなれない靴で歩き、お姫様のように腰を落としドレスの裾をちょんと持ち上げた。
「えっと……、この度は私のお誕生会を開いてくれてありがとうございます」
覚えた言葉を必死に頭の中から出しながら答える蕾の態度に微笑ましく思う。
最後にペコリと頭を下げてから母親の後ろに隠れた。
「蕾」
「お兄ちゃん……?」
俺の声に反応して母親の背中から此方に目をやる蕾に俺は微笑むと、こう言った。
「蕾、12才のお誕生日おめでとう。今日はお前の誕生日だからな。普段言えない我が儘を俺らが叶えてやる」
「え……?」
困惑した表情をする蕾に俺は笑いそうな顔をを押さえながら、後ろを向き、叫んだ。
「さあ、パーティーの始まりだ!野郎共っ、準備はいいか!?」
「おう!」
「蕾を目一杯!楽しませるぞ!」
「おぉぉぉおおお」
老若男女問わず雄叫びをあげる。それらの殆どが蕾に元気を貰っている患者や医師、看護師など、多くの者たちが揃っている。
蕾はこれだけ大勢に愛されているんだ。そう思ったら、笑顔が溢れた。
困惑する蕾に対して、俺は蕾に手を差し出す。
そして、一言。
「お手をどうぞ、お姫様」
柄にもなくそう言った俺に対して、蕾は笑った。
「はい」
そして、俺の手を取った。
それからはどんちゃん騒ぎだった。会社の女子に頼んで作ってもらった誕生日ケーキは思ったより大きく見上げる程まであり、ひやひやしたり、プレゼントと各自が思い思いのを渡したので、蕾が抱えられなくて困り果てていたりした。
蕾の誕生日会は夜遅くまで続いた。
気分転換に外で煙草を吸っていると、「煙草は体に悪いんだよ」と後ろから声がした。
振り返ると、そこには予想通り蕾がいた。
「蕾、誕生日会はどうした。主役がいなきゃ意味ねえだろ」
「私は十分楽しんだから大丈夫だよ。それより、お兄ちゃん1人で寂しいかなーって」
「大人をからかうな」
呆れて蕾の頭をポンッと叩く。
「えへへ。……お兄ちゃん、ありがとう」
「は?何がだ」
俺は煙草の火を携帯用灰皿で消しながら蕾に聞き返す。
「だって、お母さんが言ってたよ。私のお誕生日会企画したのってお兄ちゃんだって。だから……」
俺は蕾の口を手で塞ぐ。
「それはお前が手術に成功してから聞きたいね」
そう言うと、蕾の口を塞いでいた手を退かした。
「ははっ。うん、わかった。じゃあ、そうするね。お兄ちゃん!」
蕾は俺から数歩離れて、立ち止まった。
そして、腰を低く落としてドレスの裾をちょんとあげる。
「またお会いしましょう。王子様」
「約束しましょう、お姫様。貴女とまた会うときに私は貴女を妻に迎えましょう。……ククッ、なーんてな」
冗談めかして口にする。しかし、何の反応もないのが可笑しいと思い蕾に目を向けると、顔も耳も赤くした蕾がいた。
「おっ、お兄ちゃんのっ、バカー!!!」
「おい、蕾!」
蕾は走って行ってしまった。
「なんなんだ……?」
俺の声は蕾に届くことなく、むなしく空に消えていった。