第一話『不思議なペンダント』
キーンコーン キーンコーン
「えー、今日の授業はここまで。ちゃんと復習、それから予習もしてくるんだぞ」
「きりーつ、れい!」
ガタッ ガタガタッ
んー・・・静かにしてよぉ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「っちゃん・・・」
「みっちゃん・・・」
んー・・・
もうちょっと・・・あと5分・・・
「みっちゃんってば!!」
「ふえ?」
んー・・・眠い
あたしは眠たい目をこすりながら頭を上げると、目の前にはボブカットにヘアバンドをした女の子、菅平理香ちゃんが両手を腰に当てて立っていて、ヘの字口であたしを睨んでる。
「ふえ?じゃないわよ!もう6時間目終わっちゃったわよ!!」
「ええっ!?」
びっくりしてキョロキョロと左右に首を振ると誰もいない、ホントみんな帰っちゃってる。
うーわー、あたしずっと寝てたんだ。
「で、理香ちゃんは帰らないの?」
「もう!忘れちゃったの?
明日休みだし、旭通りでショッピングしようって約束したでしょ?
昼 休 み に!!」
「あ、あはははは、そーだっけ?そーだったね、あははははははは」
あたしは頭の後ろをポリポリと掻きながら笑ってごまかそうとしたんだけど
ごまかせてなかったかな?
「ホンっとにみっちゃんたら、もう行っちゃうわよ!?」
「あっ理香ちゃん待って!あたしまだお弁当箱しまってないの!!」
鞄を持って教室の入り口に向かう理香ちゃんを目で追いかけながら、急いでお弁当箱をしまって走りだした。
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「たい焼きおいしー」
「大判焼きおいしー」
あたしはたい焼き、理香ちゃんは大判焼きを食べながら旭通りを歩く。
旭通りは浜城学区にある商店街で、駅周辺ほどじゃないけどちょこちょこっとした商店が並んでる。
あたしは黒姫美鶴
県立浜城高校に通う1年生
ショートカットの髪をしずく玉付のヘアゴムで髪を左上で小さくまとめてるんだけど、『みつる』って名前と、あと142cmしかない身長なこともあって、髪をほどくと小学生の男の子に間違えられちゃったりすることもあったり。
今は制服だからスカートだけど普段はスカート穿かないし、いつも元気に走り回ってるから無理もないかもだけど。
でまぁ、そんな男の子みたいなあたしの特技は・・・
「お?みつるちゃんじゃねぇか」
八百屋の軒先で野菜の詰まったダンボールを抱えた、ガッチリとした体格で口髭顎鬚もみあげがくっついたおじさんに声をかけられた。
「あ、大将!」
「どうだい?明日、大熊通りとの試合また助っ人に来てくれるかい?」
「うんっ!もっちろん!!」
あたしはたい焼きを持ってない右手を挙げて笑顔で答える。
「へへっ、みつるちゃんが来てくれりゃ百人力だぜ」
「まっかせて!バシバシシュート決めちゃうから!!」
あたしの特技はスポーツ全般!
何でもできるけど、今は商店街のおじさんサッカーチームに混ぜてもらってるの。
・・・やっぱり男の子みたい?
「みっちゃんも好きだよねぇ」
大将の店を後にして、大判焼きを食べ終わった理香ちゃんが話しかけてきた
「うん!あたし体動かすの大好きだから」
「でも、みっちゃんについてこれるおじさん、いるの?」
「キーパーの大将はペナルティエリアの外からなら、
あたしのシュートも気合で止めるし、
明日やる相手、ヤマモト電機の鵠沼店長と
シュッセキヨシの片瀬店長のコンビプレイはヤバいよ」
「あとは?」
あとは?と聞かれて、あたしは人差し指を顎に当てて、首をかしげて考えてみる。
「んー・・・年相応な感じ、かなぁ?」
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「ねぇみっちゃんみっちゃん」
理香ちゃんが一軒の店に小走りで駆け寄り、振り向いてあたしを手招きしている。
「なになに?」
「こんな店、あったっけ?」
木造の壁に木の扉、扉の横にショーウィンドウがあり、商品が並べられている。
商品は中国風の絵柄が描かれた大きなお皿や、紳士風の格好をした猫の陶器人形、年代モノのラジオや昔の漫画といった古そうなもの。
「へぇ、骨董品屋さんかぁ」
「みっちゃん、普通アンティークショップって言わない?」
あたしの方に少しだけ首を向けて、ジト目でツッコミを入れられた。
改めてショーウィンドウの商品を見てみると、一つ気になるものがあった。
木製のアクセサリー入れのような箱で、光沢のある赤い布の中敷には2センチくらいの細い窪みが二つ、少し大きめのリング状の窪みが一つ。
それにもう一つ、丸い窪みにはペンダントが収まっている。
「何かいいのあった?みっちゃん」
「うん、これちょっと気になる」
と、あたしは理香ちゃんの方を見てペンダントを指差す。
「でもそれ、きっとすごく高いわよ?」
理香ちゃんも改めてショーウィンドウの商品をささっと見回す。
「だって、これだけ値札ついてないし」
「あ、ホントだ」
他の商品も安いわけじゃないけど、確かにこれだけ値札ついてない。
「そろそろ次行きましょ」
かがんで一緒にペンダントを見ていた理香ちゃんが姿勢を戻して歩き始めた。
「あ、理香ちゃんちょっと待って。あたし店の人に聞いてみる」
「ちょ、ちょっとみっちゃん!」
理香ちゃんに呼び止められるのを無視して、あたしは店の扉を開けた。
「もうっ!みっちゃんってばどうしたのよ」
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カランカラン
扉に付けられたベルが乾いた音を鳴らす。
店の中は骨董品が雑多な感じで所狭しと置かれている。
「いらっしゃい、何かお探しで?」
店の奥から二十代くらいの若い男の店員さんが歩いて来た。
「ねぇみっちゃん、あの店員ちょっとイケてない?」
理香ちゃんが姿勢を屈めてあたしに耳打ちする。
店員さんは紺色のノースリーブシャツと濃い茶色のカーゴパンツ、背は高めでスラっとしつつもほどよい筋肉を付けている。
「えっと、ショーウィンドウのペンダントが気になって」
「ああ、あのペンダントだね、少々お待ちを」
と言って、店員さんはカーゴパンツのポケットから鍵を取り出し、ショーウィンドウの内側のガラス戸を開けてペンダントの入った箱を持って来た。
「見せてもらっていいかな?」
「ああ、構わないよ」
あたしは店員さんが持つ箱からペンダントをそっと手に取ってみる。
するとペンダントはあたしの手の中で青白く淡い光を滲みだした。
・・・なんか、ほっとする、心地いい感じ。
「どうやらペンダントは君を気に入ったようだ」
「えっ?」
その言葉に驚いて、手の中のペンダントから店員さんの目に視線を移す。
「このペンダントは君に譲ろう、代金は君が払えるだけでいい」
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「ねぇみっちゃん、今のちょっと怪しくない?」
店の外に出て理香ちゃんが怪訝そうな顔をしてつぶやく。
結局あたしは今お金を持ってないってことで、一旦家に帰ってお金をもってくることにした。
今いくら持ってたかなぁ・・・
でも、あのペンダントがあたしのものに・・・うふふ。
とか考えながら、思わず顔が緩む。
「幸せ回路発動中ね・・・」
にや~っとしたあたしの顔を見ながら理香ちゃんが溜息をつく。
「まぁいいわ。
これからカラオケでもって思ったけど、
みっちゃんも早くペンダント欲しいみたいだし、また今度にしましょ」
「ごめんねぇ、理香ちゃんありがとう」
あたしはポリポリと頭の後ろを掻きながら理香ちゃんに謝る。
でも顔は笑ってる。
「じゃあまた来週ね。
みっちゃんいっつも宿題忘れてるんだから、今度はちゃんとやってきなさいよ?」
「う~~~~、うん、がんばる」
痛いとこ突かれた。
あたしも宿題忘れたくて忘れてるわけじゃないけど、いつも頭から抜けちゃってるのよね。
「ま、まぁじゃあ理香ちゃんも、また来週ね」
「またね」
あたしは手を振って理香ちゃんと別れると、あたしの家に向かって走りだした。
早く帰ってお金持ってこよっと、楽しみね。