けしょうのものか
妖怪というのも、初めてだったが、よく知っている。人生、絶対に無駄だと思っていた知識が、役に立つこともあるということだ。
効果があるか、正直不安だったが、ノートを出してきて、呪文を唱えることにした。
「けしょうのものか。まのものか」
「な、何を」
すると、床から大量の薔薇が吹き出した。神様が包まれ、見えなくなると同時に、床が消え、俺の身体が落ち始める。
そして上に、巨大な茨の玉が蠢きながら、同じ様に落ちてきていた。
それが四本足の獣の姿になる。尖った耳、尻尾がたくさんの……狐だろうか。それが大きく口を開けて、迫る。
「我慢ならん! 良くも、良くも。不遜にもほどがあるわぁぁああ」
声が神様だ。
神様の中にいる何かの正体を見破ろうとしただけなのに、神様の正体をも表してしまったらしい。茨で出来た狐の姿に成った神様の姿を見て、虫が天敵だと言っていたのを思い出し、納得する。
どうにかして、神様に元に戻ってもらおうと、また、覚えている呪文を唱える。
「みこしか、みこしか、お帰りください。おんじ、おんさが、しんじんゆうれつ、おんじくうれつ、かしこみかしこみ申し賜る」
言葉の意味自体は、帰れ帰れと言うわけだが、その呪文を唱えると、身体が落ちるのをやめた。俺は、部屋の廊下にいつの間にか立っている。しかし、神様の力を押さえ込めるはずはなく、廊下には、茨で出来た狼の姿をした神様がいた。
「このっ痴れ者がぁああ、あぁっあふん」
飛びかかってくる神様に、目を閉じて何もかも諦めた俺だったが、目を開けると、神様は廊下にうずくまっていた。しかも、元の女の人の姿だ。
「何をしたぁああー」
叫ぶとお腹に響くのか、小声で神様が言う。
「なにしたー」
「いや、虫下しだから、、、トイレ行ったら?」
「どこ」
神様の声は、もう消え入りそうな声になっていた。
「其処の突き当たり」
這うように神様が廊下の奥に消える。
「不問にする」
神様が、廊下の奥に消えてから、一時間くらい経った。なかなか帰ってこないので、テレビを見ていたら、いつの間にか神様が後ろに立っている。




