ぼんやりと猫
滝上論理のミソロジー
神主とか、巫女とか、普段何をしているのかよく知らない職業はたくさんある。普段何をしているのか、聞けば答えてくれるのだろうが、それが本当に本当の事なのかは、きっと解らない。現に、神様がいるとして、それを隠すからだ。
俺の家は、昔から少しおかしかった。子供のころから、ありとあらゆる迷信を叩きこまれた。子供の頃は純真な心を持っていて、それに疑問すら抱かなかったが、今は少し違う。
もう精神的に中学二年生ではないのに、おかしな呪文を覚えさせられたり、神様が人と違うことを聞かされたりするのは、苦痛だ。
そもそも、俺の家は、神社ではない。父は会社勤めだ。父が言うには、かなり昔に、神社をしていたらしいが、それがなんだというのだろう。巫女は俺の家にいない。巫女のいない神社など、古風建築物に過ぎないのに、さらにその古風建築物すら無い家に、宗教的価値など無い。
そして俺は今、むかついている。なにやら、昔神社をしていた頃に縁がある、神様と関係のある人が今日やってくる。そのため、俺はとなり町の菓子屋まで買い出しに行かされて、あげく、父が帰ってくるまで、相手をしないといけないらしい。
棺桶に片足を突っ込んだ爺の相手など、死ぬほど嫌だ。
少しだけ時間に遅れて家に帰ると、家の鍵が開いていた。
「ん?」
「遅い」
猫だ。玄関で、尻尾をブンブンと振っている。猫がしっぽをふるのは不機嫌な合図だと聞いたことがあるが、今はそれよりも、受け止め無くてはならない現実がある。
玄関のドアを開けると、猫が遅いと文句を言った。
試しに眉に唾をつけると、猫の輪郭がぼやける。
「まじかよ」
眉に唾をつけるのが、効果があるなんて思っていなかった。眉唾といって、妖怪が化けていると、その正体を現すらしいのだが、しかし、輪郭がぼやけるだけで、正体が現れたとはいえない。
それでもこの猫がただの猫ではない証明には、十分だ。
「神の正体を暴くことは、最上級の侮辱である。しかし、初めてではしょうがない。許すからもてなせ」
「え?」
「とろいな」
神だと名乗る猫は、俺の前を堂々と歩いて、まるで俺が猫に客間に案内されているような、不思議な気分になる。
当然のように猫は上座に座るので、俺は向かいに座った。




