妖魔退治終了
「ケケケ、さっきは油断したが、今度はそうはいかんぞ」
つながったままの携帯を少女の傍らに置き、立ち上がった。
「久しぶりの血はうまかったぜぇ。特にガキの血は最高だぁ」
奴の全身は赤黒い岩肌のようなもので出来ていた。
形が人間なだけに、その姿は焼死体のように見えた。
一瞬で男に近づくと、頭に回し蹴りを叩き込む。
人間だと首がもげそうな、腰の乗った回し蹴りだった。
だが、ヒットした男の首はもげることはなく、蹴りが当たった顔面部分だけが吹き飛んでいた。
吹き出た血が、霧となって襲いかかってくる。
かまわずに男に向かって殴りかかった。
突き、蹴り、ありったけの攻撃を相手の体に叩き込む。
たちまち男の体はバラバラに飛び散った。辺り一面に、バケツをひっくり返したような血が広がった。
「フフフ、効かんなぁ」
どこからともなく声が聞こえた。
血の霧が一つに集まっていく。
集まった血は人型となり、奴は復活した。
背中に刺さった物を、回した手で引き抜いた。刺さったときと同じ、鋭い痛みが起こる。刺さっていたのは、先が鋭く尖った木の杭だった。
「時間が無くってなぁ、大した武器が用意できなかった。悪いがこれでくたばってくれぇ」
復活した奴の手に、新しい杭が握られていた。
「•••••」
奴を見つめたまま、意識を集中した。
どんな奴にも弱点がある。必ずある。たとえ血液が出来ていても、核の部分は存在するはずだ。そう、奴の体で、最も気の濃いところ。
俺は引き抜いた杭を奴に向かって叩きつけた。奴が杭をかわす隙に、素早く人に潜り込む。
心臓の辺りを狙って、手刀を突き刺した。俺の手刀は手首まで埋まった。
皮膚は多少硬かったが、体内は液体だけだった。なま暖かい、嫌な感触だった。おそらく血液でできているのだろう。かさぶたで覆われた、血液人間。
心臓の辺りに硬い物があった。
掴んで、引きずり出した。
その物体は、木でできた人形だった。
手足をまっすぐに伸ばしたような感じに彫られた、木人形。
「よ••よぉ、よく解ったな。そうだ、これが俺の本体さぁ。降参だ、勘弁してくれよお」
木人形の、荒く削られた顔が、まるで普通の生き物のように喋った。物乞いするような、情けに頼る声だった。
言い終わらないうちに握りつぶす。奴の血でできた体は地面に倒れ、崩壊した。草むらに、血の匂いが広がった。
妖魔の闘いに、情けは必要なかった。人間は人間の法で裁かれる。だが、妖魔は誰も裁けなかった。取り逃がさば、恨みだけが残る。いつか、復讐のターゲットにされるだけだ。
少女に駆け寄った。手首を握り、脈を取った。胸に耳を当て、心音を訊いた。
つながったままの携帯を掴んだ。
「救急車はもう必要ない。場所は宝々池、国際会館との間の草むらだ。後は任せた」
回線を切った。
バイクにたどり着くまでの足取りが重かった。